エンケラドスに生息する生物の種類

NASAの宇宙生物学者リチャード・フーバーさんは、エンケラドスこそ生命がいる天体だと考えている。

写真=NASA/JPL/Space Science Institute
エンケラドスにあるタイガーストライプス

フーバーさんは仲間の研究者らとともに標高3000メートルを超えるオーストリア・アルプスの山頂付近を探索した。そこに広がる氷河は、フーバーさんによれば、エンケラドスのタイガーストライプに極めてよく似た環境だという。氷河は昼間でもマイナス15℃という極寒の世界だ。その一角から、フーバーさんらは、氷河の内部へ繋がる氷の洞窟に入った。

フーバーさんがその洞窟を訪れたのは、太陽の光すら届かない洞窟の環境が、太陽から遠く離れたエンケラドスと同じだからだ。氷の中を10分ほど進むと、巨大な氷の柱が林立する大きな空間が現れた。アイスパレス(氷宮殿)と呼ばれる場所だ。フーバーさんによれば、エンケラドスのタイガーストライプはまさにこうした世界だという。

「天井や壁から伸びる巨大な氷の柱。このような形の氷がエンケラドスのタイガーストライプにもあるはずです。裂け目の中で、氷の結晶が成長し、地球と同じように重力に引っ張られ、下へ下へと成長し続けているのです」

光が当たらない極寒の氷世界で、フーバーさんたちはその氷を切り出し、慎重に袋に入れて持ち帰った。翌日、アイスパレスから持ち帰った氷を、密封した袋の中で溶かし、顕微鏡で覗いてみると、何かが動いていた。バクテリアが見つかったのだ。

氷の世界に生きる微生物だった。

「私たちは地球の氷河の氷の中で生きる微生物を知っています。ですから、極寒のエンケラドスの中でも、少し温度が高いタイガーストライプなら、生命が存在する可能性は非常に高いでしょう。氷の中で微生物が繁栄していると思います」(フーバーさん)

生命を生み出すのに必要な3要素

科学者たちは、氷の間欠泉が噴き出すエンケラドスのタイガーストライプに生命存在の可能性があると考えている。しかし、近年の研究では、タイガーストライプの他にも注目すべき場所があることがわかってきた。

地球が生命を生み出すことができたのは、3つの条件を満たしていたからだと考えられている。

それは、生命を形作る材料となる有機物、有機物を溶かし反応を促進する液体の水、そして化学反応を促進する太陽のようなエネルギー源の存在だ。

太陽系では地球だけでこれら3条件が揃うと考えられてきた。

一つは、地球が太陽からほどよく離れた領域、いわゆる「ハビタブルゾーン(生存可能圏)」にあることだ。そのおかげで、地球では、水が、氷(固体)や水蒸気(気体)としてではなく、液体として存在できる。