ロシアは軍事侵攻と同時に、ゼレンスキー氏暗殺部隊をウクライナ国内に派遣しているはずだ。しかし、ゼレンスキー氏が暗殺されれば、「アメリカよ、今こそ武器をとって参戦せよ」という声が湧き起こるだろう。そうなったら、世界各国がロシアに対しスクラムを組んで牙をむくことになる。プーチン氏もそれはわかっているので、そう簡単にゼレンスキー氏の首は取れない。

アメリカの政治学者イアン・ブレマー氏は「プーチン氏は単純なミスで全世界を敵に回した」と今回の軍事侵攻を評しているが、まったくもってそのとおりだ。

停戦協議が進まなければシリアのような惨状が起きる

ウクライナ情勢は停戦協議において一定の合意が得られないのであれば、“シリア化”する可能性がかなり高い。

シリアでは「アラブの春」の流れを受けて2011年にアサド政権派の国軍と反体制派との武力衝突が起こり、ロシアはアサド大統領から要請されて軍隊を派遣した。

シリア内戦はロシアの軍事介入によって国軍が勝利したが、その代わりロシアによってシリア国内はめちゃくちゃに破壊されてしまった。アレッポの破壊はウクライナにおけるマリウポリの惨状と同じで、恐らく再建には50年くらいはかかるだろう。

軍人も民間人も関係なく無差別攻撃をして相手の戦意を喪失させるというのが、伝統的なロシアのやり方なのである。実際、今回のウクライナ侵攻でも、プーチン氏は最初のころは「ロシア軍の攻撃目標は軍事施設だけ。民間人に危害は加えない」と言っていたのに、マリウポリでは、民間施設の産婦人科病院や民間人が避難している劇場も躊躇なく攻撃している。首都キーウ郊外では大量の民間人虐殺の疑いも出てきた。

一方、ウクライナのほうは、そのようなロシアの無差別攻撃を受けても「死ぬまで抵抗する」と、戦意喪失どころか、今のところ白旗を掲げる気配はない。

また、ロシアから命を狙われているゼレンスキー氏のところには、NATOから「ポーランドにウクライナ臨時政府をつくったらどうか」という提案もなされているようだが、ゼレンスキー氏は絶対に受け入れないはずだ。なぜなら、自分がウクライナを離れた途端、ロシアがキーウを占拠して、そこに傀儡政権をつくることが目に見えているからである。