親会社を凌駕する成長を遂げた子会社

古河電工は、ジーメンス社との合弁子会社であった富士電機を上場させ、富士電機はその子会社であった富士通を上場させた。これらの上場子会社は独立性を強め、親会社よりも大きく成長している。さらに富士通は、ファナックを上場させ、ファナックは独立性を強めていった。

同じように、豊田自動織機の子会社であったトヨタ自動車は親会社をはるかに凌駕する優良企業に成長した。積水化学の子会社であった積水ハウスは、親会社の拘束を離れ、独自に発展していった。富士フイルムHDは、ダイセル化学工業の子会社であったが、今やそのことを知る人はごく少数になってしまった。

日立製作所ももともとは久原鉱業所日立鉱山付属の修理工場として発足し、分離独立後、現在のように発展した会社である。独立性の強い兄弟会社も多い。子会社上場は、日立グループの成長の基本手段でもあった。今回はそれを変えようというのである。

もちろん、子会社上場にも欠点はある。支配株主である親会社と一般株主の利益相反が起こりやすいことが最大の問題である。最近では、同業種の子会社上場を証券取引所は認めていない。

第二の欠点は、親会社によるガバナンスに様々な制約が課せられることである。子会社への戦略的介入が自由にはできないというのがその制約の例である。同じ理由から、経営資源の再分配にも制約がある。子会社のキャッシュを親会社が吸い上げるためには複雑な手続きが必要である。事業の再編にも制約が課せられる。子会社の事業部と親会社の事業部との統合は容易ではない。統合後の事業部をどちらに持っていくにしても、事業譲渡の対価の決定と法的手続きが必要である。

また最近のようにアクティビスト株主が闊歩するようになると、上場子会社は、その攻撃の格好の標的となってしまう。アメリカでも子会社を上場させるという経営方式をとっていた企業があったが、その企業もこの方式をやめてしまったようである。アメリカでも子会社の上場が効果的であった可能性はあるが、それが採用できないというのは、アクティビストの弊害の一つである。

こうした上場子会社を完全子会社化しようとする最近の動きは、親会社の戦略機能の強化に伴うものである。完全子会社化することによって親会社主導の事業の再編や、資源の配分に関する制約を取り除けるというメリットがある。親会社の経営陣としては魅力的である。

しかし、それに伴うデメリットもある。子会社の自立性の低下に伴うインセンティブ問題である。いい経営さえしておれば、自分たちの自立性が確立できるというのは、子会社を大きく発展させる原動力になるが、それが失われてしまう。言い換えれば、子会社の大きな発展の可能性が奪われる可能性がある。

子会社の大きな発展のためには、子会社の株式売却による完全分離独立を真剣に考えるべきだろう。株式売却によって得られるキャッシュを社内の戦略事業に集中投資すれば親会社の成熟事業の発展さえ期待できるかもしれない。完全子会社化はこのような発展の芽を摘んでしまう。