そのマッキノンが、「愛されないドル本位制(unloved dollar standard)」と称して、世界全体がドル本位制から離れたがっていることを指摘している。アメリカ人は、ドル本位制の下でアメリカ以外の国々がドルにそれぞれの通貨を固定する一方、N-(マイナス)1問題(N個の通貨があれば、為替相場はN-1個しかない)からアメリカは為替相場を直接にコントロールすることができないことにより、ドル本位制を問題視している。一方において、アメリカ以外の国々は、ドル本位制の下で、野放図なアメリカの金融政策に世界経済が振り回されることに辟易している。そして現在のアメリカの金融政策、いわゆるQE2は、連邦準備銀行から供給されている過剰な資金が中国などの新興市場国に大量に流れ込んでいて、新興市場国においてインフレや資産バブルを引き起こしているとして、アメリカ政府への批判を強めている。一方で、この批判に対して、中国などが依然としてドルに対して通貨を過小評価させているために、外国為替市場に介入していることによる外貨準備残高・貨幣供給量の急増がインフレや資産バブルを引き起こしているのであって、問題は、事実上のドル・ペッグを続ける新興市場国側にあるという反論もある。このように「愛されないドル本位制」ではあるが、失うには高価であり、ドル本位制には慣性の法則が働いているために、ほかに置き換わるのが難しいとマッキノンは論じ、アメリカの金融政策の「カイゼン」を求めた。
このセッションでは、彼らの報告のなかで円に関しての言及もあったので、日本人の筆者としては、このセッションのテーマとしては、「ドル、ユーロ、元と国際通貨制度」ではなく、「ドル、ユーロ、円、元と国際通貨制度」としてほしかったところではある。が、国際通貨制度のなかにおける元の台頭に、経済学者のみならず世界が注目している現在の状況が反映されセッションのテーマとなっているのであろう。現状においては、中国政府は厳しい外国為替管理や資本管理を維持していることから、元の国際通貨としての使い勝手の悪さのために、元の国際化、さらには、国際通貨体制における元の役割はごくごく限定されたものとならざるをえない。むしろ、中国政府は、国際通貨体制における基軸通貨としてのSDR(IMFの特別引出権)の可能性に注目している。しかし、SDRは、IMFへの拠出金の表示通貨でしかなく、バーチャルな通貨でしかないために、SDRを国際通貨として流通させることは非現実的であることが指摘されている。