港を一からつくってしまった

別の自動車メーカーがタイに進出したときには、現地製造の完成車を輸出する港が見つからず、当社は「港からつくりましょう」と提案しました。何もない岸壁から港を掘ったわけではありませんが、自動車積み出し用の設備などない状況で、一から手を入れて実際に完成車輸出用の港をつくってしまったのです。ここまでやればお客様の信頼はおのずと高まり、継続して自動車輸出を任せてもらえます。

当社の力だけでこういうことができるわけではありません。インド航路ひとつとっても、当社は百何十年もの長い経験があり、その間に築いてきた人的ネットワークがあります。そこに現場で学んだ社員の知識が組み合わさり、知恵が生まれてくるのです。

もちろん、学ぶ側の姿勢も大切です。私は「誠意・創意・熱意」を重視しています。ハードの差別化は限界があります。となると、あとは知恵比べです。その知恵の源泉としては、現場経験だけでは十分でなく、お客様の立場でものを見る目も必要になってきます。お客様に一番近いのは、貨物輸送をお客様から直接オーダーされる会社です。最近、グループでこの機能を担う郵船航空サービスとの事業統合を発表しましたが、そのノウハウを当社に取り込むことも狙いの一つです。

幅広い視点で物事を見る目が養われてくると、船会社の人間であっても、「今回はエアで行こう」とか「船で間に合うな」といった発想で柔軟に考えられるようになります。現場に学び、お客様に学ぶ――。これが私の最高の教科書なのです。

※すべて雑誌掲載当時

(斉藤栄一郎=構成 芳地博之=撮影)