トラックのドライバーが不足している──。国内貨物輸送量のおよそ9割(※)を担うトラック輸送の現場が、今、大きな課題を抱えている。トラックメーカーは、その中でいかなる解決策を提示することができるのか。UDトラックスの村上吉弘社長に語ってもらった。
UDトラックス 代表取締役社長
村上吉弘(むらかみ・よしひろ)
関西学院大学卒業後、米ペンシルベニア大学(ウォートン校)でMBA取得。フォード自動車、三菱自動車工業を経て、2008年日産ディーゼル工業(現UDトラックス)に入社。国内販売事業最高責任者を務め、15年1月より現職。

──物流現場の人手不足が広く報道されています。トラック運輸業界の運転手不足も深刻なようですね。

【村上】実はドライバー不足の問題は以前からありました。当社では、お客さまからリアルな声を聞く機会もあり、早くから重要な課題としてとらえていたのですが、ここにきて「運転手不足で荷物が止まる」という事態が発生し、報道の量も増えています。特に大型トラックの場合、一般に高い運転技術が必要となるため、人材採用のハードルが高く、ドライバーの高齢化も指摘されるようになってきています。

そうした中、UDトラックスはすでに20年以上前から操作が容易で安全かつ安定して運行ができる大型トラックの開発を進めてきました。そのコア技術が電子制御式オートマチックトランスミッション「ESCOT(エスコット)」です。今年の4月に発売した「新型Quon(クオン)」には最新の「ESCOT-VI(エスコット・シックス)」を採用し、これまで以上に“オートマチックの乗用車感覚”で運転できるようになりました。

「ESCOT」はアクセルとブレーキだけで操作が可能です。クラッチ操作が不要なため、若手や女性ドライバーでも比較的早く熟練者と同じような運転ができるようになります。これが採用の幅を広げ、人材不足解消の一手となり得る。そう考えています。

フルモデルチェンジでさらなる進化を遂げた「新型Quon」

13年ぶりのフルモデルチェンジを果たした大型トラック「Quon」。ドライバーにとって、Quonに乗ることが誇りと歓びにつながることを目指し、開発された。クラス最高レベルの燃費・環境性能と力強さを両立し、同時にスムーズでストレスの少ない快適な走りを実現。UDトラックス独自の「ESCOT-VI」を採用し、乗用車感覚で運転することができる。
シンプルで使い勝手のいいシフトレバー
シンプルなストレート式のシフトパターンを採用した「ESCOT-VI」のシフトレバー。ドライブモードに入れれば、プログラミングに基づいて、プロドライバーのような迅速なギアチェンジと燃費効率の良い走りを実現することができる。
見やすくデザインされたインストルメントパネル
文字サイズやレイアウトにも配慮し、視認性を高めたインストルメントパネル。中央のマルチディスプレイに表示される「燃費コーチ」では、燃費・環境に良い運転ができているかを3色(グリーン、イエロー、レッド)でお知らせ。「総合評価点数」「エンジン/シフト」「スピード」など、項目ごとに確認できる。
 

普段運転しない経営者が「これなら私でも乗れる」

──富士スピードウェイで、新型Quonの試乗会をされました。狙いはどこにありましたか。

【村上】通常のテストコースでは体験できない、サーキットならではのタフな高低差や厳しいカーブを、快適に走行するQuonを“実感”してもらうことが狙いとしてありました。輸送会社の経営者やオーナーの方々を招待して実施したのですが、「ESCOT-VI」の操作性と乗り心地の良さに、多くの方が驚いていらっしゃいました。「これなら私でも乗れるな」と普段トラックを運転することのない経営者の皆さまが口々におっしゃっていたのが印象的です。

もちろん「ESCOT」だけでなく、厳しい排出ガス規制に適合したクリーンかつ強力なディーゼルエンジン、制動性に優れた総輪ディスクブレーキ、さらに安定走行を支援するオートクルーズなどの機能が連携してスムーズで安全な走りを実現しています。

燃費についても道路状況を先読みする機能「フォアトラック」やドライバーの運転傾向を解析する「燃費コーチ」で省燃費運転をサポート。また安全性については、トラフィックアイブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)、ドライバーアラートサポート(ふらつき注意喚起装置)などの先進システムを搭載し、ドライバーだけでなく周囲の安全も確保しています。加えて、車両全体の軽量化で積載能力を向上させるとともに、メンテナンス性を高めた部品を採用することなどにより、トラックそのものの稼働率向上を図っています。

新型Quonはこのようにトラックに求められる五つの要素──「運転性能」「燃費・環境性能」「安全性」「生産性」「稼働率」が、より高い次元で具現化されています。“人を想い、先を駆ける”というのが、13年ぶりにフルモデルチェンジしたこの大型トラックのキャッチフレーズですが、“人”が指しているのは単にドライバーだけではありません。物流に携わるすべての人々、さらには社会全体のことを想いながら、時代の一歩先を行くトラックをつくり上げました。

現場を重視、尊重し顧客のパートナーに

──UDトラックスが事業活動、またトラック開発において、特に大事にしていること、意識していることは何でしょうか。

【村上】当社には、現場を重視し、尊重することを示した「UD現場スピリット」という言葉があります。これは、創業以来受け継がれてきたプロ意識と情熱であり、お客さまが抱える課題をパートナーとして一緒に解決していくという決意を表わしています。日々お客さまと接している全国166カ所のサービス拠点のスタッフがニーズを具体的かつ丹念にお聞きし、新たな商品、サービスとして提供していく。新型Quonも、そうしたお客さまの生の声に一つ一つ応える中で、形づくられていったのです。

2016年からボルボ・グループでは、個々のブランドが裁量権・独立権をいっそう持つようになりました。私たちUDトラックスにおいても、開発・生産・販売の自由度が高まり、現地でスピーディーに意思決定ができる状況が生まれています。つまり、“現場の声”が反映される仕組みが世界規模で整備されたのです。

私はよく言うのですが、“革新”の本質というのは技術的な目新しさではなく、いかに社会やお客さまのもとに新たな価値を提供できるかどうか──。ここにあります。最先端技術とお客さまを知り抜いた現場スタッフの声。これらが融合し一つになることで、新たな革新が産声をあげる。私は強くそう思っています。

(※)トンベース