「どんな細菌が伝染するか分からなかったから」
つまり、それくらい、厳しいゼロコロナ政策の下で、家族同然であるペットのことを心の底から心配し、愛情をもって育てている人が非常に多いという証拠でもあるといえるが、上海で犬を飼っている知人は「それでも安心はできない」と話す。それは、中国特有の事情、つまり、地区によって、また防疫担当者によって、やり方は千差万別であり、結局のところ、その状況になってみないと「分からない」からであり、「それがいちばん怖い」ことだという。
「ルールではこうだと明確に書かれていても、規則を振りかざしても、担当者によっては分かりません。今回のように道端で元気な犬を叩き殺すという、人間のやることとは思えないことをする人も、中にはいるわけです。自分自身が隔離されてしまったあとは、絶対に大丈夫とは言い切れないでしょう」と疑っていた。
中国の報道によると、今回、上海市で犬を叩き殺した防疫担当者は「どんな細菌が伝染するか分からなかったから。よく考えないで、あんな行為を行ってしまった」と語っていたという。防疫担当者は公務員ではないが、社区(マンション群やその周辺のやや広い地区)ごとに雇われた半公務員的な役割を担う行政の担当者だ。医療従事者や警備担当者だけではなく、一部アルバイト的な人も含まれる。
度重なるロックダウンに疲弊する中国人の闇
彼らはロックダウン以降、非常に業務量が増えており、強いストレスを抱えている。彼らがやったことをかばうことは絶対にできないが、睡眠時間も削らなければならないような厳しい状況で、あのような悲劇が起きてしまった。多くの市民も、防疫担当者がどれほど過酷な業務や、人々に嫌われる業務を担わされているかは十分に分かっているし、彼らが大変な苦労をしていることを知っている。でも、だからこそ、「うちのペットに何をされるか分からない」と疑心暗鬼の気持ちにもなっているのだ。
暗澹たる気持ちになるが、一筋の光明もある。4月上旬、中国のSNSで広くシェアされていたのが深圳市光明区に建設されたばかりの「深圳市ペット集中托管センター」という公的な施設だ。まだ正式にオープンしておらず、細かい情報は出されていないが、敷地面積は約8500平方メートル、建物の面積は1500平方メートルで、感染して隔離された人のペットを約300匹まで無料で預かるという。
新華社などのニュースアプリに流れていた同センターの動画では、広大な広場で犬を運動させることができたり、健康管理も行ったりする、夜間もケージ内を見回りする、などと紹介されていた。また、同じく深圳市福田区にも200匹まで無料で預かる施設ができているという。