情報の非対称性により市場の反応が変わる
今回のフランス国債などの格下げは、その理由に挙げられた5つのシステミックなストレスが新しい情報ではないことから、なぜ今さら格下げをするのかという疑念とともに、すでに織り込み済みというS&Pに対する評価もある。
しかし、現実は、話がやや複雑になる。市場参加者が全員同じように格付け機関に対して情報劣位にあるわけではなく、市場参加者の間でも情報の非対称性、すなわち、情報上の優位と劣位があるのが現実であろう。相対的に情報劣位にある市場参加者は、情報上の優位性を有していると(少なくとも彼ら彼女らが)信じている格付け機関の格付けによる情報に、その行動を反応させるであろう。
そのことを知っている、相対的に情報優位にある市場参加者は、格付け機関の格付け変更に直接には反応しないかもしれないが、相対的に情報劣位にある市場参加者が格付け機関の格付け変更に反応することを予想して、市場全体が反応することを予想するならば、その予想に合わせた行動を取る可能性がある。
このように、もし市場参加者が、格付け機関による格下げに対して他の市場参加者が反応すると予想していると、ソブリンリスクに影響を及ぼすであろう。もしこれが前述した自己実現的悪循環と結びつくと、事態は、ファンダメンタルズから離れて、ソブリンリスクを悪化させる可能性がある。今回のS&Pによる欧州国債とEFSF債券の格下げがこのトリガーを引く役割を演じないことを願う。