21年春以降、明白な効果は確認されなかった
まん防は、2021年4月から2022年3月にかけて、何回かにわけて行われました。分析の結果わかったのは、初期時点においては一定の効果が見られたものの、その後は明白な効果を確認できなかった、というものです。
効果がなかった、とは言い切れませんが、少なくとも私が行った分析によると、効果は限定的だったのではないかという結論でした。また、効果が確認できた時期の大きさは、まん防により人口当たり重症者数が1~2割減った、というぐらいの大きさでした。
もちろん、これはあくまで1つの結果に過ぎず、今後全く別の結果が出てくる可能性も十分にあります。ですので、たった1つの結果だけに基づかないで頂きたいという思いです。
より重要なのは、このようにデータを使って政策評価をすることで、政策のコストの部分とベネフィットの部分を浮き彫りにできる、ということです。このような知見を積み上げていけば、将来的に、例えば、なるべく費用対効果が大きい政策を選ぶということも可能になってきます。
経済学者が取り組んだ途上国の不登校の解決法
数年前に、アビジット・バナジー、エスター・デュフロ、マイケル・クレーマーという3名の経済学者がノーベル経済学賞を受賞しました。彼・彼女らの功績は、「世界の貧困を改善するための実験的アプローチに関する功績」です(※2)。この「実験的アプローチ」ですが、上で書いた、因果効果を取り出し、その大きさを測る、という話と関連しています。
例えば、途上国では、子どもの不登校が1つの社会問題です。どうすれば子どもを学校に通わせることができるか、という問題に対しても、様々なアプローチの仕方があり得ます。この3名と他の研究者たちは、これらの効果の大きさをきちんと測り、比較するための実験的な方法を、開発・発展させてきました。
さて、読者の皆さまは、この「どうすれば子どもを学校に通わせることができるか」という問題に対し、どのようなアプローチを提案されますでしょうか。
状況を知らないと提案するのは難しいというご意見はごもっともです。実は私たち研究者がやっているのもこれと同じで、状況をある程度理解し、アイデアを試し、それを検証し、状況をより良く理解する、ということを繰り返しています。最初から答えが与えられているわけではないので、試行錯誤の連続です。