中国政府が普及させたい「デジタル人民元」とは

2022年に中国政府はデジタル人民元を誕生させるでしょうが、デジタル人民元とは電子マネーではありません。ブロックチェーンを土台とした仮想通貨であり、正式な通貨でもあります。

デジタル人民元は、スマートフォン上の「ウォレット」というアプリを利用して入出金や送金、決済に使用されますが、ブロックチェーンを土台としているため、中国国内に銀行口座を有していない外国人でも理論的には利用が可能です。電子マネーでは、中国国内に銀行口座(あるいは中国国内発行のクレジットカード)を有している場合のみ利用可能である点が大きく異なります。

中国ではデジタル人民元の誕生以前から、金融ビジネスにおいては世界最高水準を実現しており、アリババやテンセント系列のアリペイやウィーチャットペイというスマホ決済を中国人10億人が利用しています。

2021年時点で、中国政府は、民間の仮想通貨を禁止とし、なおかつ、アリババやテンセント等に圧力をかけて10億人の中国人が使用するアリペイやウィーチャットペイを掌握しようとしている可能性が高く、そうであれば、いずれ14億人の中国人すべての消費行動や資産状況は中国政府に掌握されます。

しかも、アリペイやウィーチャットペイの中身を従来の電子マネーからデジタル人民元へとすり替える可能性が出てきたため、日本や欧米などの外国でも、デジタル人民元決済のアリペイやウィーチャットペイが広く利用され、情報収集される可能性が生じてきたのです。

写真=EPA/時事通信フォト
スマートフォンに表示されたデジタル人民元ウォレット(財布)アプリと人民元紙幣(2022年1月6日、中国・北京)

中国政府が狙っているのは金融データ

たとえば、日本のセブン‐イレブンの年間売上高は5兆円ですが、日本のスマホ決済を使えば、売り手負担3~4%の1500~2000億円を支払わねばならないところを、アリペイやウィーチャットペイを利用すると、売り手負担は0.6%の300億円以下に抑えられます。

さらに、中国貿易業者は、海外送金手数料が無料となる可能性が出てきます。しかも、アフターコロナでは、年間1000万人の中国人観光客も来日するでしょう。

経済的効率性を求めて誰もがデジタル人民元決済のアリペイやウィーチャットペイに飛びつくでしょう。ところが、アリペイもウィーチャットペイも中国政府も、狙っているのは手数料ではなく金融データなのです。そして、金融データとは「何にいくらお金を使っているか?」という情報であり、インターネットの検索データの「何に興味を持っている?」という情報よりも、はるかに強力なデータなのです。

ブロックチェーンを土台としたデジタル人民元は、消費者の秘匿性を認めない設計でしょうから、アリペイやウィーチャットペイなどの登録時の個人の名前、住所、生年月日、家族構成、勤務先などの個人情報に加えて、「いつ、何に、どこで、いくらのお金を使ったか?」が中国政府にガラス張りになります。

そして、デジタル人民元を土台としたアリペイやウィーチャットペイを決済の中心にしてしまうと、「資産、年収、支出、貯蓄がいくらあるか?」という金融情報すべてが中国政府にガラス張りになるのです。