日本の電源構成のうち、天然ガスが占める割合は38%と最も高い。天然ガス価格の上昇によって、電力価格も上昇を余儀なくされる。仮にそれを補助金で引き下げることは市場の歪みにつながるし、また最終的な負担は納税者に転嫁される。

いずれにせよ、ウクライナ有事は日本のエネルギー事情にとって、まさに「有り難くない」話だ。

天然ガスを売らなければロシアの経済が成り立たない

では本当にロシアはウクライナ有事の際に、ヨーロッパ向けの天然ガスを絞るのだろうか。

基本的にこの選択は、ロシアとヨーロッパの双方にとって傷が深い選択となるため、容易にはとり得ない最後の手段だろう。ロシアにとって石油とガスはヨーロッパに売れる唯一の商品だ。つまり、それを売らなければロシアの経済が成り立たない。

ロシアには、国民福祉基金と呼ばれる有事に備えた予備費が存在する。

原油高の局面で得られた超過税収を一般財政とは別に積み立てたもので、欧米との対立などで景気に強い下振れ圧力がかかった際に利用されるものだ。

その国民福祉基金の規模は、足元で名目GDP(国内総生産)の12%程度の規模にとどまっている(図表2)。

出所=ロシア財務省

クリミア危機(2014年2月)の直後に比べれば基金の規模は大きいとはいえ、ウクライナで有事が発生し、欧米から制裁を科された際に、この基金だけでロシア経済を支えることはできない。

そうした中で、ロシアがヨーロッパ向けの天然ガスの供給を絞るといった手段を取ることは、経済的には文字通りの自殺行為だ。

仮にロシアが供給を絞れば、それはヨーロッパの「ロシア離れ」を加速させることにつながる。最大の需要家であるヨーロッパを失うことは、当然ながらロシアの経済にとって大きな痛手となる。