【1区】

1区は中央大・吉居大和(2年)が5.5km付近で抜け出すと、区間記録を上回るハイペースで攻め続けた。中大・藤原正和駅伝監督は、2区まであと少しのところで叫んだ。

「残り1kmで区間記録より30秒速い。もうちょっといける。まだ絞れてない。お前の得意なスパートを見せてやれ。いけるぞ!」

吉居は東海大・佐藤悠基(現・SGホールディングス)が保持していた“伝説の区間記録”を15年ぶりに更新。タスキを渡した後は両手を上げて、笑顔を見せた。

【2区】

花の2区は駒澤大のエース田澤廉(3年)が激走した。中大をかわしてトップを奪うと、その後は後ろを気にすることなく、前だけを見つめて突き進んだ。残り3km。駒大・大八木弘明監督から、こう声をかけられる。

「相澤の記録と同じぐらいの感覚。相澤の記録を狙える。いい感じできてるぞ!」

最後の上り坂は苦しみ、相澤が持つ日本人最高記録には届かなかったが、区間歴代4位の1時間6分13秒で走破。後続に1分以上のリードを奪った。

大八木監督は鶴見中継所を通り過ぎるときには3年生主将にこう感謝した。

「ご苦労さん、ありがとう!」

その声に対して、田澤は苦しいなかでも、手を上げて、頭を下げた。駒大の2区区間賞は大八木監督が選手時代に出して以来36年ぶりの快挙。ふたりの間に“特別な思い”があったことだろう。レース後、田澤は「前回も同じことを言われたんですけど、今回のご苦労さんのほうがうれしい。監督も心から喜んでくれているようだったので、頑張ってよかったです」と語っている。

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一方、同じ2区で序盤は駒大を追いかけるかたちになった青学大の原晋監督は、エース近藤幸太郎(3年)に苦しい終盤に声をかけている。

「ここから楽しめ、笑顔だぞ!」

【3区】

原監督は続く、3区太田蒼生(1年)にはこう言って鼓舞した。

「ヒーローになっていくよ、ヒーローに!」

太田は区間歴代3位の快走でトップを奪い、本当にヒーローになった。

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第98回箱根駅伝:3区、先頭に立った太田蒼生(手前)に声をかける青学大の原晋監督=2022年1月2日、神奈川県平塚市[代表撮影]

3区では帝京大・遠藤大地(4年)にかけた中野孝行監督の言葉も印象に残っている。

「4年間よく頑張った」

遠藤は1年時から“次期エース”として大きな期待を背負ってきたが、箱根駅伝以外は思うように結果を残すことができなかった。しかし、箱根駅伝は4年連続で3区を快走する。競技は大学で終えるため、レース中にかけられた“感謝の言葉”は身に染みただろう。遠藤は4年間で計“19人抜き”を達成(1年、3年時にそれぞれ8人抜き)。湘南に“赤い旋風”を巻き起こして箱根路を駆け抜けた。