代表制度が民主化されたプロセス
代表制民主主義とは、民主主義の理念を代表制度によって実現しようとする政治のあり方だ。しかし、代表制度は民主主義ならびにその理念と何ら本来的な関係がない。
そもそも代表制度は、封建社会という非民主主義的な社会においても活用された制度だ。だから、選挙によって選ばれた代表者たちから構成される議会があるなら、その国の政治は民主主義だというのは、端的に誤りといえる。これは私たちの常識的な知見からも明らかだ。例えば、中国にも選挙と議会がある。しかし、中国が権威主義国家であることに変わりはなく、私たちは民主主義国とは決して見なさない。
とはいえ、近代の民主主義は、代表制民主主義と呼ばれてきた。この事実は否定しがたい。代表制度が民主主義と結合し、その制度によって民主主義の理念を実現しようとした一連の試みが実際に存在してきたことは純然たる事実である。さらに、その試みがある程度、成功したことも確かだといえよう。
民主主義は、共有のものの私物化を禁じ、それによって専制政治を防ぐことを目的とする。では、どのような仕組みによって、代表制度はこれを実現しようとしたのか。言い換えれば、実際どのようにして代表制度は民主化されたのか。そして、その仕組みの下で、代表制度はどのような歴史をたどったのか。
クジより選挙を選んだ近代民主主義
古代アテナイの市民たちは、権力の私物化を禁じ、反専制政治を実現するために、クジと輪番制という制度を採用した。それは、政治の専門化ないしエリート化こそ、それらの専制政治の元凶だということを彼らが経験していたからである。翻って言えば、民主主義の理念を実現するには、クジと輪番制によって政治権力を行使する上での平等を徹底することが最適だと知っていたからだ。
誰もが政治権力を直接行使できれば、権力の私物化は難しくなる。これに対して、近代の民主主義は、専制政治に対抗する手段として、平等性を担保するクジという手続きではなく、代表者を選ぶ選挙という手続きを重視した。それはなぜなのか。ここでは、正統性という言葉に注目してその理由を考えてみる。