「クリエイターの予算獲得手段はある」
——日本人の国民性によってエンタメ業界が苦しくなっていっているということですか?
【西野】それは間違いなくあると思います。
国の支援がなくても、自分たちで予算をつくる選択肢はあったわけですから。
僕は2013年にクラウドファンディングでニューヨークの個展の開催費用を集めていたし、2016年から制作過程を売るオンラインサロンを始めていました。だけど、そのたびに「ネット乞食だ」「詐欺だ」「宗教だ」と言われて炎上していたので、それを見ていたクリエイターさんはなかなか後に続けないですよね。自分は無視できるタイプだから平気ですけど。
海外勢に比べて、日本人がクリエイティブの面で負けていると思ったことはありません。
今回、映画『えんとつ町のプペル』がノミネートされたフランスのアヌシー国際映画祭でも最終ノミネート作品の中の10本中3本が日本の映画でした。世界に約200カ国あるなかで、そんな国は日本くらいで、とても素晴らしいことだと思います。シルク・ドゥ・ソレイユや海外のアニメーションスタジオで活躍している日本人もたくさんいて、皆さん、高い評価を得ています。
だけど、日本国内では、日本人がクリエイターの予算獲得手段をつぶして、才能を殺していっている。その間に韓国ではBTSが、制作過程を売って大成功を収めていたりして。日本でも最近になって「これからは制作過程を売るプロセスエコノミー」だって言い始めましたが、そんなもの10年前からあった打ち手なのですが、そういったチャンスを、ことごとく日本人がつぶした。
もう少し素直に時代に耳を傾けるといいのかもしれません。
舞台役者はバイトしないと食べられない日本
——才能が殺されているというお話でしたが、いま、クリエイターさんが食べていくのは厳しいのでしょうか。
【西野】食べていけるのは、ごく一部の人だけですね。
たとえば、舞台役者さんは稽古を1カ月くらいするのですが、その間に稽古代は基本的に支払われない。無収入なんです。それが当たり前になっているけど、僕は反対です。なので映画のあとに脚本・演出でかかわったファミリーミュージカル「えんとつ町のプペル」では、稽古代を出すと最初から決めていました。
稽古代を出すと決めたら、当然、カンパニーとしては稽古代分の売り上げをつくらないといけません。だけど、そのための取り組みを日本人は叩いてしまう。しかも、叩くのは演劇ファンだったりするので。先ほどから申し上げている日本人の定番ギャグ「なんかよく分からないけど、そんなの良くない」です。
そのときに、ファンの声を無視できるカンパニーだったり、プロデューサーがいるといい。矢面に立って批判を受け止める人です。「あれは西野がやっていて、西野が全て悪い」となって、キャストさんが批判されないよう持って行ければいい。だけど、皆、自分が可愛いので、そういう役目を引き受ける人は、なかなかいません。結果、役者さんがアルバイトとかしながら舞台に立っている。これは健康的な状態とはいえないです。