日本人のお金リテラシーの低さがエンタメを殺す
——西野さんはご自身の夢として世界に挑んできたわけですが、その間に日本は、国策としてエンターテインメント産業を育成した韓国に水をあけられていきました。西野さんは、いまの日本のエンタメ業界をどのように見ていますか?
【西野】あんまり元気じゃないのは間違いないですよね。
その原因を考えてみると、クオリティに問題があるというよりも、「日本人のお金リテラシーが絶望的に低い」というのはあると思っています。お客さんだけでなく、クリエイターも含めてです。お金リテラシーが低い、いまの日本の土壌では、おもしろいものはつくれないんだろうなと思っています。
たとえば、来年1月に上演する「プペル~天明の護美人間」で3万円のSS席というのをつくったんです。かぶりつきで見られる特等席を3万円で売ると、売り上げが確保できて、3000円の席をつくることができて、歌舞伎のハードルをグッと下げることができます。それに対して、どこかの頭の悪いメディアが「プペル歌舞伎は高い!」というニュースを出していました。ミスリードでアクセス数を稼ぐメディアの品の悪さは今に始まった話ではありませんが、お金リテラシーの低い人が、その記事を鵜呑みにしてしまい、「プペル歌舞伎は高い!」という批判を起こしてしまう。
それって、「累進課税をてやめて、一律課税でいけー!」と叫んでいるようなもので、3万円のSS席を作らなかったら、ほかの席が4500円とか5000円になってしまう。すると、歌舞伎を見るハードルがあがってしまうから、新規のお客さんが入ってこない。これって小学生でもできる算数なのですが、お金教育をトコトンしてこなかった日本人には通用しない。こういうリテラシーの低さでとりこぼしているチャンスがめちゃくちゃあると思っています。
VIP席を作ったことがニュースになって騒いでしまうのって、本当に日本くらいです。飛行機のビジネスクラスとファーストクラスのことは知っているのに、ビジネスクラスとファーストクラスの売り上げで飛行機が飛んでいることは知らない。だけど、「VIP価格はなしでいこうよ」となると、チケット代が高くなって新規のお客さんは増えないし、制作費も減っていきます。
これだけではありませんが、日本人のお金リテラシーの低さから、日本のエンタメは海外勢にお金でマウントを取られてしまっている。韓国のアイドルグループがミュージックビデオをつくるときに、1億円ですと。一方、日本のアイドルグループは500万円でつくってくださいといわれたときに、同じダンスのクオリティだとしたら、韓国側に軍配があがってしまうので。
日本なりの予算の作り方を考えないといけない
——韓国に負けているのは、国の支援がないというところが大きいでしょうか?
【西野】それもあると思うのですが、国がエンタメを支援してくれないのは、昨日、今日、始まった話ではなくて、何十年も続いている話です。もともとわかっていることなのだから、手を打たなければいけない。日本なりの予算作りの議論をしていかないといけないと思います。
「従来の方法以外で予算をつくる」となれば、当然、これまで売っていなかったものを売らなくてはいけなくなります。自分たちはよく「制作過程」を売ってるんですけど、そこに反発があるんですよ。「そんなのを売ってはダメだ」と。お客さんだけでなく、クリエイター側からも。
制作過程も、DVDの特典で売るのはいいという(苦笑)。なぜ、それがよくて、オンラインで制作過程を売るのはダメなのっていう話なのですが。
——不思議ですね。
【西野】批判する人は感情で反応してしまっているので、理屈は完全に破綻しています。理詰めしていくと確実にゲロを吐くと思います(笑)。
日本人が新しいことや知らないものを叩いてしまうっていうのはすごくあって。いつもなぜなんだろうと考えるのですが、一つ、島国の性格もあるかもしれません。大陸はウエルカムじゃないですか。「なるほど」と受け入れるところから始まって、咀嚼してから是非を決める。
僕、10年ほど前に「制作過程を販売して、アウトプットは無料でいい」って言ったんです。アウトプットは制作過程を売るためのチラシであると。チラシであるからといって手を抜くということじゃないですよ。当時、コロンビアに行った時に、地元の美術大学で「インターネットによって情報や技術が共有されると、いずれ成果物の品質に差がなくなり、成果物はお金にならなくなるから、制作過程を売っていくことを学んだ方がいいよね」という講義をしたんです。そうしたら、みんな「うわ、なるほど!」って納得してくれた。だけど、同じ話を日本ですると「何言っているの?」「プロセスを売る?」「詐欺なの?」「宗教ですか?」みたいになって、全然聞いてくれないという(苦笑)。