上川法相は自身の考え方をちゃんと持っている人だと思いますし、言葉の伝え方も菅首相とは違って上手なので、質問の事前チェックなどしなくても対応できるはずです。でも、大臣の周囲の官僚たちは「大臣の答弁にミスがあったら困るので自由な質問はなるべくしてほしくない」と思っているのかもしれません。変な答弁になった場合、責められるのは法務省になりますから。

問題は、「事前の質問チェック」をほとんどのメディアが受け入れてしまっていることです。首相や大臣、官房長官などにきちんとした答弁をしてもらいたいという気持ちはわかります。でも、メディアと政府はある程度の緊張関係を保っていないといけない。当たり障りのない質問と答弁だけが繰り返される出来レースのような記者会見では、政治権力の暴走に拍車をかけるだけです。

かつての首相会見では記者クラブが仕切り役に

【森】最大の問題というか根源は、会見を「誰が仕切るか」という論点です。『i 新聞記者ドキュメント』においても問題提起をしたけれど、記者会見の主催者は記者クラブです。ならば記者クラブや記者会が場を仕切り、司会も記者クラブ側が立てるべきです。べきというか当たり前。でもそうなっていない。主催とは名ばかりで、イニシアチブはすべて官邸にグリップされている。

【望月】以前、中曽根康弘さんが首相をしていたころの記録を国会図書館で調べたことがあります。首相会見の記録も手書きの文書で残っていて、司会は記者クラブの人間が務めていました。会見は長いものでは、1時間くらいは行なわれていて、記録を見ると記者たちもしっかり質問しているし、中曽根さんもちゃんとそれに受け答えをしている。

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三度目の緊急事態宣言下にある2021年5月上旬時点での菅首相の会見は「質問は一社一問」と限られ、答えが不十分な場合でも追加質問、いわゆる「さら問い」は認められていません。質問は重ねて聞くことでより権力者側の意図が露になりますので、さら問いを認めないという姿勢が続いているのは、やはり異常だと感じます。

政治が国民のためにあるのならば、首相や官房長官の会見は中曽根さんの時代のように、一刻も早く記者クラブ側が仕切るようにすべきだと思います。でも、そういった動きが各新聞社側からなかなか出てこないのが実情です。