義務でもマスクを着けない人々

パンデミック初期の対策として、イギリスでは都市封鎖(ロックダウン)を採用し、むやみに人に接触しないように政府主導で義務的な隔離政策が取られた。一般の住人に対して義務化されたのは、家族や同じ家に住む人以外と基本的に外で会わないこと、また公共交通機関やスーパーなど公共屋内におけるマスクを義務化することなど。これは政府によって法制化され、違反した場合は、100ポンド(約1万5000円)の罰金対象になった。

しかしここがイギリスらしいと思うのは、最も厳しい強制措置が取られていた昨年の秋から今年の春にかけても、決められた枠外で友達に会うことを躊躇しなかった人もいたし、マスク義務のある現場でマスクを着用しない人も1割程度はいたことだ。

義務化されているとはいえ、イギリスでは健康上の理由で「exemption」(適用外)である場合は、着用する必要はない。ではどのように適用外であることを証明するのか。これは驚いたことにほぼ自己申告なのだ。実質的に医師による診断書などは一切必要ない。ただ適用外であることを示す「exemption badge(適用外バッジ)」や「exemption card(適用外カード)」を入手すればいい。

このバッジやカードは例えばロンドン交通局の公式ウェブサイトで簡単に申請できるほか、適当にウェブ検索すると既存のデザイン・フォーマットなどをプリントできるページがあるので、それを自宅プリンターで印刷してカードやバッジの形にして身に着けるだけ。

筆者撮影
筆者がマスクを着けたくなくていち早く取り寄せた適用外カードの例。目に見えない障害を抱える人たちのための組織「Hidden Disabilities Sunflower」が発行するカード。これまでに一度だけ提示する機会があった。

着用派と未着用派がバランスを取りながら共存

もっと言うと、公共交通機関でマスクを着用していない人の中で、このカードを首からつり下げたり洋服に着けたりしている人はほとんどいない。「見えるところに着用しなければならない」という法律はないので、大抵は持ち歩いているだけで必要があれば提示するという感じだろうか。やはりこれも自己申告の範囲内なのだ。

イングランドで全ての規制がとれた7月19日以降は、筆者の住むロンドンではますますマスクを着用する人が少なくなった。現在のところロンドン交通局は公共交通機関内でマスクは「mandatory(規則による義務)」であるとうたっており、構内放送を通して強制力を発揮しようとしているのだが、筆者の観察では現在のところほぼ3割がマスクを着用していない。

以前は着用していない人に対して鋭い視線を向ける人もいたのだが、それもなくなり、着用派と未着用派がバランスを取りながら共存している印象だ。

筆者撮影
10月半ば現在の地下鉄内風景。マスク着用が義務でも3割程度の人は着用していない。