SKイノベーションやサムスンSDIも米国投資を検討
2020年の時点で、世界の車載バッテリー市場では、中国の“寧徳時代新能源科技股份有限公司(CATL)”がトップとなる26%のシェアを持つ。2位がLG化学の23%だ。CATLは共産党政権からの産業補助金によって急速に生産技術と価格競争力を高め、車載をはじめとするバッテリー市場でのシェアを獲得している。
その一方で、米国には全固体電池など次世代のバッテリー開発に取り組むスタートアップ企業はあるが、今すぐに実用化できるバッテリーを、大量に生産できる企業は見当たらない。ここから先、GMやフォードが米国にとって競合相手である中国企業から車載バッテリーを調達することはかなり難しい。米国の自動車メーカーなどにとって、短期間で大量生産体制を整える力を持つ韓国企業との提携は、現実的な選択肢だ。
LG化学やSKイノベーションに加え、サムスンSDIも米国への直接投資を検討している背景には、経済安全保障面から安定したバッテリーの供給体制を築きたいという米国政府や産業界の考えがある。
他社に切り替える米国企業が増えるかもしれない
LG化学はかなりの危機感をもって原因の究明とバッテリーの安全性能の向上を実現しなければならない。シボレー・ボルトEVのリコールによってLG化学の車載バッテリーの安全性が注目されがちだが、足許の世界経済では車載バッテリーよりも、パソコンなど民生分野でのバッテリー需要が旺盛だ。LG化学は、持ち運び型の充電器やパソコン、スマートフォン、スマートウォッチなどに用いられるバッテリー、さらには電力の貯蔵に用いられる蓄電池の大手サプライヤーだ。
3回にわたるシボレー・ボルトEVのリコールは、LG化学のバッテリー製造技術全体への不安を高めた。LG化学がバッテリーの発火問題の原因を解明し、安全性の向上を実現するのに時間がかかれば、GMのEV戦略には、さらなるマイナスの影響があるだろう。LG化学からのバッテリー調達を他社に切り替える米国企業が増える可能性も高まる。足許、LG化学にとってバッテリー事業は稼ぎ頭であるだけに、短期間での問題解決の可否が、同社の中長期的な成長期待を左右する。