民間金融機関に危機が起こる可能性も

このように民間金融機関が負担する債務削減は、財政再建による税収増大と政府支出削減というギリシャ政府の将来のキャッシュフローの構造的変化がない限りは、その効果は一回限りのものとならざるをえない。したがって、PSIによる債務削減が成功するか否かは、ギリシャ政府の財政再建にかかっている。

一方、債務削減は、部分的な債務不履行(デフォルト)とみなすこともできる。実際に、第二次金融支援パッケージは、事実上のデフォルト、あるいは、秩序あるデフォルトといわれている。今後、この第二次金融支援パッケージが失敗に終わったときに、ギリシャ政府から一方的にデフォルトを宣言されることを多くの欧州の民間金融機関は恐れている。

万が一そのような事態に陥った場合に、ギリシャ財政危機が欧州の民間金融機関の金融危機に発展する危険がある。そして、金融危機に直面した欧州の民間金融機関は、他のユーロ圏諸国の中でも前述した諸国の国債を売却せざるをえなくなり、財政危機がそれらの諸国に伝染するリスクが高まる。

実際に、9月14日にムーディーズがギリシャへのエクスポージャーの高いフランスの金融機関、ソシエテ・ジェネラルとクレディ・アグリコルの格付けを下げ、それぞれ、ソシエテ・ジェネラルの格付けを「Aa2」から「Aa3」に、クレディ・アグリコルの格付けを「Aa1」から「Aa2」に引き下げた。また、ソシエテ・ジェネラルの格付け見通しは「ネガティブ」とした。

フィナンシャル・タイムズによれば、これらのフランスの金融機関が保有するギリシャへの民間・政府部門への投融資は、クレディ・アグリコルが259億ユーロ、ソシエテ・ジェネラルが58億ユーロ、さらに、BNPパリバが74億ユーロとなっている(11年6月時点)。これらの株価は急落している。

 

機能していない欧州の銀行間市場

一方、欧州市場における金融機関のカウンターパーティ・リスクを表すロンドン銀行間取引金利(LIBOR)マイナス米国TBの金利差、すなわち、信用スプレッドは、欧州市場における金融機関を信用リスクと流動性リスクを総合的に反映する。

図に示されているように、この信用スプレッドは、07年のサブプライムローン問題の顕在化、08年9月のリーマン・ショックによって大きく跳ね上がった。しかし、その後、米連邦準備銀行から欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(BOE)への通貨スワップによるドル資金供給を通じて、ECBやBOEが、担保があれば、ドル資金供給を無限に供給することによって、信用スプレッドが低位に収まっている。

しかし、実際には、ギリシャ国債デフォルトを懸念して、ギリシャ国債を有する金融機関間のカウンターパーティ・リスクが高まっているために、資金の出し手は、ECBやBOEの中央銀行のみとなっており、銀行間市場は機能していないといわれている。新聞報道などでは、信用スプレッドが高まったと指摘されているが、問題は欧州の銀行間市場が機能していないことである。

これらの金融リスクの高まりと同時に、前述した諸国の国債の利回りが急上昇し、これらのソブリン・リスクが高まっている。

今となっては、ギリシャへの第一次金融支援パッケージにおいて、財政危機の伝染を恐れたために付加されなかったPSIによる債務削減と(そのPSIの債務削減が伴われるからこそ)他のユーロ圏諸国による徹底したギリシャに対する財政再建のピア・プレッシャーがあれば、ギリシャ政府によるコンディショナリティの履行が難しいのではないかという履行リスクが管理することができたかもしれなかったのであある。

過去のことを悔やんでも、問題解決にならないかもしれないが、第二次金融支援パッケージを成功させるためには、その反省と教訓が必要である。

信用スプレッド(LIBOR-TB、3カ月物、ドル)
(平良 徹=図版作成)