「臭い物に蓋」していたことへの猛烈な後悔

実は、その工務店が急激な成長をしていく過程で、社長の生活や飲み方が派手になっていくのは知っていました。しかし、長年の友人関係もあり、私は文句一つ言わなかったのです。「いつか気付いてくれるはず」そんな人情を持って、待ち続けていましたが、結局友人の社長は気付くどころか、工期の遅れや工事の失敗にも謝罪はありませんでした。遂には「安く工事をやってやってんだから文句を言うな」と言う始末でした。

言うべき場面が何度もあったにも関わらず、私は臭い物に蓋をするように無視をしてきました。実態よりも大きく膨れ上がってしまった会社に、自分自身が付いて行けなくなるのは、私が経験した痛恨の失敗の筈でした。猛烈な後悔と共に、私は事ここに至ってようやく全ての取引先への謝罪と共に、契約の打切りを頼みました。そして、私達もこの会社から手を引く事を決断したのです。

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もしも、私に情ではなく、本当の愛情があったのなら、面倒臭がらずに本人ときちんと向き合い、駄目なものは駄目だと諭していた筈です。人生において何が大切かを思い知らされた出来事でした。のちに社長が反省し、謝罪をしてくれたのですが、残念ながら取引先が戻ることはありませんでした。

積み重ねた10年の実績は、一瞬で雲散霧消したのです。しかし、人生という名のゲームは、諦めない限り負けはありません。今ではその会社の復活を心から願っています。

「小さな事の積み上げ」に違和感があった

愛情というと、必ず思い出すエピソードがあります。

エレベーターの保守管理を行う会社で、ジャパンエレベーターサービス(これ以降JES)という、シェア日本一の会社があります。私達は、全てのエレベーターの保守管理をJES社にお任せし、共に歩んできた会社です。

お付き合いが始まったのは14年ほど前に遡ります。エレベーターメンテナンスの成長企業として評判だった事、そして石田克史社長自らが営業に来ていただいたご縁もあり、お取引きが始まりました。

しかし、当時の私と石田社長の交流は頻繁ではありませんでした。石田社長の「経営は小さな事を一つ一つ積み上げること」と常に言い切る経営姿勢に、個人的には少し違和感があったのだと思います。なぜなら、当時の私は小さな事の一つ一つの積み上げなど、考えている場合ではないと思っていたからです。

上場をしてからいつも業績に追われ、株主の目を意識した経営に固執するあまり、短期的な結果ばかりを追い求めていたのです。はっきり言えば、何千円というメンテナンス料をひたすら積み重ねる石田流経営に、学ぶ事がそれほどあるとは思えなかったのです。そして、お取引が始まってしばらくした頃、あのリーマンショックが起こりました。