「史上最強の官房長官」と与党内の評判は高かった
感染急拡大の兆候を無視するかのように、菅首相は東京オリンピックの開催(7月23日~8月8日)に踏み切った。しかも閉会の2日前には「東京の繁華街の人流はオリンピック開幕前と比べて増えていない。オリンピックが感染拡大につながっているという考え方はしていない」とまで強調していた。尾身会長が国会で「五輪開催が人々の意識に与えた影響はあるんではないか」と繰り返し答弁していたにもかかわらず、である。
菅首相には周囲の意見を聞こうとしない悪癖がある。自分が正しいと考えると、何ら疑問を持たずに突き進む。業突く張りなのだ。安倍晋三首相(当時)のもとでのナンバー2という立場では「史上最強の官房長官」と与党内の評判は高かった。しかし、首相に就任してからの評判は芳しくない。メディアの世論調査でも内閣支持率は下がる一方である。
8月13日に新規の感染者(1日当たり)が2万人を突破すると、菅首相は「帰省や旅行を極力避けていただきたい」と国民に協力を求めていたが、東京五輪の開催と相反するだけに、メッセージが届くとは思えない。
「私に逆らうようなら異動してもらう」と脅すことも
昨年12月の首相官邸での出来事である。菅首相が財務省の主計局長を呼び出し、特定の予算を2倍に増やすよう求めた。その局長が「無理です」と反対すると、切れた菅首相は「こんなんじゃまったく話にもならない」と怒鳴り散らし、資料を床に投げ付けた。結局、予算は菅首相の思惑通りに増額された。
菅首相は官房長官のときにも霞が関の官僚を怒鳴り付け、ときには「私に逆らうようなら異動してもらう」と脅すこともあった。最近ではワクチン不足の対応をめぐって河野太郎行政・規制改革相と衝突している。
新型コロナ対策では世界のどの国のトップも苦労している。パンデミックを引き起こした新興感染症はコントロールが難しい。菅首相は夏休みも取らずに頑張っているというが、テレビでその表情を見ていると、目に生気が感じられない。8月6日の広島原爆平和式典ではあいさつ文の読み飛ばしもあった。
菅首相は今年12月で73歳になる。前首相の安倍晋三氏より6歳も年長である。高齢を偏見視するわけではないが、内閣総理大臣として国政をつかさどるには肉体的にも精神的にも限界に近いのかもしれない。
国民を第一に考えるのであれば、首相続投に向けて頑張るのはやめて、後進に道を譲ることを考えるべきではないだろうか。