8月6日、東京都世田谷区を走行中の小田急線の車内で、男が乗客を切りつけ10人がけがをする事件が起きた。ノンフィクション作家の吉川ばんびさんは「男は『チヤホヤされてそうな女性を殺してやりたい』と供述しているという。SNS上では『弱者男性も苦しんでいる』という論陣を張る人もいるが、女性差別の解消と弱者男性の救済は分けて考えるべきだ」という――。
写真=時事通信フォト
小田急線祖師ケ谷大蔵駅から負傷者を運び出す救急隊員ら=2021年8月6日夜、東京都世田谷区

女性を殺害することに激しく執着

8月6日午後8時半ごろ、小田急線の車内で大学生の女性が突然見ず知らずの男に牛刀で胸など7カ所を刺されたうえ、他にも乗客が切りつけられるなどして男女合わせて10人が重軽傷を負う事件が起こった。

逮捕された男(36歳)は「6年ほど前から幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった」と供述していると読売新聞などが報じている。また、「文春オンライン」は以下のように報じている。

対馬容疑者は容疑を認めており、「誰でもよかった」「殺せなくて悔しい」と供述する一方、「(重傷の女子学生が)勝ち組の典型にみえた」「男にチヤホヤされてそうな女性を殺してやりたい」とも吐露しているという。
捜査関係者によると、対馬容疑者は取り調べに対して「大学時代のサークル活動で女性にバカにされたり、出会い系で女性にデートの途中で断られたりした」と恨みつらみを語っているという。
8月8日配信「文春オンライン」より引用

インセルによる女性をターゲットにした襲撃の歴史

このように女性をターゲットにした襲撃は、特別めずらしいことであるとは言えない。アメリカでは「インセル」による殺人が複数回起こっている。インセルとは「インボランタリー・セリベイト」の略語で、「不本意な禁欲主義者」を意味する。本人が望んでいるにもかかわらず、恋愛やセックスのパートナーを持つことができず、「自分に性的な経験がないのは、対象となる相手側にある」と考えており、ネット上で不満を書き連ねるだけでなく、殺人事件を引き起こすケースもある。

たとえばアメリカでは、2014年、女性への「復讐」を宣言し、6人を殺害したエリオット・ロジャーは、インセルのコミュニティ内で英雄視され、その後、ロジャーを崇拝した男性により多くの女性が殺害され、犠牲者は少なくとも44人にのぼった。

さらに、1989年にカナダで発生した「モントリオール理工科大学虐殺事件」では、フェミニズム反対を表明した男が女子学生をターゲットに28人を銃撃し、このうち14人の女子学生が殺害され、14人が負傷した。

犯人であるマルク・レピーヌ(当時25歳)は過去、モントリオール理工科大学の受験に失敗しており、その理由を「理工科系の世界に女性が進出しはじめたことで、男が座っていた椅子を女に奪われた」ためであると考えた。そして「フェミニストのせいで自分は受験に失敗し、人生を台無しにされた」と思い込み、「フェミニストは殺害すべきである」として、凄惨な虐殺事件を引き起こしたといわれている。