娘が「女」になっていくのを嫌った母
母親が最も恐れていたのは、私が異性と付き合って、自分の元からいなくなることだったのだと思う。そのため、私が年頃になって異性と仲良くなると、母親はこれまで以上に私への支配を強めた。私が少し遅めの時間帯に帰ると、どこで誰と何をやっていたのか、事細かに聞いた。そして帰ってきた私を汚らわしいものを見るような目で、罵倒したり突き放すような態度を取ったりするようになった。
私が「女」になっていくのを嫌った母親は私に対して、しばしば性嫌悪ともとれる発言をしていた。「胸と尻ばかり大きくなって、気持ち悪い体形」とか「男を誘うような格好なんかして」と嫌悪感をむきだしにする母親は、いつまでも私に子供のままでいてほしくて、自分の言うことをなんでも聞く素直さと、無垢さを持ち、無条件に、絶対的に自分を求め、肯定してくれる存在でいてほしかったのだと思う。
「虐待されていた」と気付くまで
私が母親の支配に気が付いたのはおよそ1年前、投薬治療に加えてカウンセリング治療を開始してからだった。担当の心理士から「あなたがされていたことは虐待です」と言われたとき、私は20年以上自分を苦しめてきたものの正体がわかったような気がして、ようやく母親とは別の人生を歩むことを許されたように思えて、涙が止まらなかった。
母親を置いて家から逃げたことを、母親のそばにいてやれないことを、泣きながら「帰ってきてほしい」と電話をしてくる母親の期待に応えられないことを、ずっと後ろめたく思い、罪悪感に苛まれながらこの7年間を過ごしてきた。私は母親をふびんだと思っていたし、私たちのことを殴るのも、精神的に不安定だから仕方がなかったのだと思い続けて、誰に何を言われようと「お母さんだって頑張ってるから」「虐待なんて大げさだ、お母さんはそんなつもりない」とかたくなに認められなかったのだ。
おそらく私は「この世で自分を愛してくれる唯一無二の存在」であるはずの母親からひどいことをされていた、と認めるのが恐ろしくて仕方がなかったのだと思う。それを認めてしまえば、自分が誰からも愛されていない、必要とされていない人間であるように思え、そうなれば、自分の存在意義を根底から大きく覆されてしまうから。