「頼りがいがある夫役割」を徹底的に拒否して生きている

折しも2021年3月、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長が、女性が多い会議は長引くとか、わきまえた女性たちについて発言して批判され、辞任に至りました。Twitterではハッシュタグ「#わきまえない女」を使って意思表示する人がたくさんいました。

この流れで言えば、桑野信介は、まさに「#わきまえない男」です。嫌なこと、不快なことは口に出し、事実関係の間違いは忖度そんたくせずに指摘します。相手が見込み客でも遠慮はしません。性別も家族構成も違いますが、私が桑野の言動に苦笑しつつ共感するのは、彼が自分に正直に、社会から期待される「頼りがいがある夫役割」を徹底的に拒否して生きているからです。

女性の完全な解放は、男性の解放なくして実現しないと私は思います。その意味で、頼りがいや優しさといった、異性愛女性が求める要素を「そんなものは、俺はいらない」と捨て去っている桑野的な人物に、かなり本質的なジェンダー革命の萌芽を見るのです。

「結婚できない」いじりは今の時代に合わない

独身キャリア男性の桑野と対比されるのが、専門職のキャリア女性たちです。「結婚できない男」には医師や住宅プロデュース会社の営業職、「まだ結婚できない男」には弁護士の女性が登場します。リアリティを感じたシーンは多々ありました。たとえば、医師が仕事を終えて中華料理店に入り、ラーメンとビールを注文してひとりで幸せそうに食べる風景。この医師がひとりで漫画喫茶に行くシーンも、分かるなあ、と思いました。

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私は今、家族と同居していますが、休日の朝、子どもが起きる前に散歩に出かけ、公園で読書をすると心が落ち着きます。また、ひとりで食事をする時は、中華料理店や蕎麦店によく行きます。周囲は地味な服装のひとり客ばかりです。

話を盛り上げるためか、ドラマでは桑野を含む独身者が「結婚していないこと」を批判したりいじったりするシーンが頻出します。桑野の変人ぶりを部下や取引先が揶揄やゆしたり陰口を言ったりした上で、「だから結婚できない」と述べる場面が多すぎるのは、独身差別であり、今の時代には合いません。

また、物語で重要な役割を果たす女性医師や女性弁護士が独身であることについて、桑野自身が嫌味や意地悪を言うシーンも多発しています。ドラマ全体を通じて「すべての人が結婚すべき」という価値観が強く出すぎているところや、自己主張をはっきりする人を「変人扱い」して馬鹿にしてよい、と言わんばかりの表現が浸透しているところは、笑えない、と思いました。