元教員「本当にゴミ部屋なんですけど……すみません」

ここの家主は、60代後半の独身男性。もともと男性の両親との3人暮らしだったが、近年両親を亡くしたという。この度、地元不動産会社がこの土地を買い取ることになった。すでに売主も決まっているのだが、不動産会社が室内のひどい状態に驚き、物の処分を「あんしんネット」に依頼したという。

家を取り壊す場合も、なかの物がそのままでは解体作業ができない。作業代は、この土地を売った代金から不動産会社が支払うようだ。

撮影=今井一詞
元教員宅の2階。これまでみたゴミ屋敷の中でも不衛生さが際立っていた。

作業は全3日間行われることになり、初日は私を含め9人の作業員が集合した。

ブザーを鳴らすと、こざっぱりとした身なりの男性が門を開けてくれた。穏やかな笑みを浮かべている。「元教員」だというが、たしかに見た目はそのような“清潔感”がある。すでに男性は新居を見つけており、私たちが作業している間はここを離れるそうだ。

「本当にゴミ部屋なんですけど……すみません」

男性は申し訳なさそうに、現場チーフの溝上大輔さんに何度も頭を下げながら立ち去っていく。

撮影=今井一詞
作業中のケガを防ぐため、とくに下半身は厳重に守ってから現場に入る。

玄関周辺から出てきた約20台の「電動草刈り機」

残しておいてほしいといわれた家具3点を除き、室内の物はすべて処分することになった。

室内のゴミは、引っ越しに使うサイズのダンボールを組み立て、そこに投げ込んでいく。だが、なんでもまとめて処分すればいいわけではない。食品や液体類、ライター、ビデオ類、鉄が含まれたものなどは「処理困難物」として別の袋に仕分けする必要がある。仕分けルールを守らないと処分場で爆発し、火事などの事故につながる恐れがあるのだ。

玄関周辺には膝くらいまでゴミが積もっていた。ゴミの内容はチラシ類や郵便が多かったので、作業用の手袋をはめた両手でゴミをまとめてすくってダンボールに投げ込んでいたら、突然ゴミの中から電動草刈り機が出現した。いくつも、いくつも出てくる。玄関周辺から全部で約20台の電動草刈り機と40本近くの傘が出てきた。一歩間違えば凶器になり、自分が傷を負ってしまう。慎重にゴミをつかんだ。

撮影=笹井恵里子
玄関前には20台ほどの草刈り機が放置されていた。

封を切られていない小箱が出てきた。開けてみると、ある地方のジャムが6瓶入っている。宅急便の伝票つきで贈り物のようだが、数年前に賞味期限が切れている。