「朝日の立場が明確に見えてこない」

5月14日付の朝日新聞の連載「メディア私評」で慶應義塾大学の山腰修三教授は、「ジャーナリズムの不作為 五輪開催の是非、社説は立場示せ」と厳しく迫った。

「『ジャーナリズムの不作為』という言葉がある。メディアが報じるべき重大な事柄を報じないことを意味する。例えば高度経済成長の時代に発生した水俣病問題は当初ほとんど報じられなかった。このような不作為は後に検証され、批判されることになる。

ジャーナリズムは出来事を伝えるだけでなく、主張や批評も担う。したがって、主張すべきことを主張しない、あるいは議論すべきことを議論しない場合も、当然ながら『ジャーナリズムの不作為』に該当する。念頭にあるのは言うまでもなく、東京五輪の開催の是非をめぐる議論である」

写真=iStock.com/Aramyan
※写真はイメージです

山腰教授は、朝日の五輪に対する立場が明確でないとし、はっきりさせろと叱咤する。

「5月13日現在、朝日は社説で『開催すべし』とも『中止(返上)すべし』とも明言していない。組織委員会前会長の女性差別発言以降、批判のトーンを強めている。しかし、それは政府や主催者の『開催ありき』の姿勢や説明不足への批判であり、社説から朝日の立場が明確に見えてこない。内部で議論があるとは思うが、まずは自らの立場を示さなければ社会的な議論の活性化は促せないだろう。

『中止』を主張する識者の意見や投書、コラムを載せ、海外メディアの反応も伝えている、という反論もあるかもしれない。だが、それでは社説とは何のために存在するのだろうか」

論説主幹は「社長の了解は得ている」

この一文は朝日社内、特に論説室に大きな影響を与え、26日の五輪中止せよという社説につながったと、週刊文春(6/10日号)が報じている。

週刊文春で、社内事情を知る幹部社員がこう語っている。

「社説を担当する論説委員室では、今年三月頃から五輪中止を求める社説の議論が出ていた。週に一度ほどの頻度で『書くべきだ』という意見が複数の委員から上がっていたそうです」

論説委員室は報道・編集部門から独立した組織になっている。委員は30人ほどで、平日午前11時から会議を開き、何を書くかを2、3時間にわたって議論し、合議制で決まり、編集局長でさえ口出しすることはできないそうだ。

現在のトップは根本清樹論説主幹。政治部や「天声人語」を担当し、2016年から主幹に座る。根本は中止社説に当初から意欲的で、会議でも、「社長の了解は得ている」といっていたという。