10年前と比べて職員の姿勢がガラリと変わった

それでも、こうしてハンコレスが達成できたのは、市の職員のマインドセットやスピード感が、以前とは大きく変わったからです。私が市長に就任した頃は、状況はかなり異なりました。

市民サービスの向上や業務の効率化を図るため、あるいは福岡市をもっと魅力的で強い街にするため、職員に新たなことを提案し改革を行おうとしても、できない理由の説明だけを聞くことが多く、民間から首長になった自分ではそれに反論する知識も経験もなく、なかなか思うことを実現できずにいました。

しかし、10年経って、私の方針をサポートしてくれる強力な職員が増えてきたことで状況は大きく変わりました。これまでの仕事の進め方を見て、「この人は前例に関係なく、他都市や国では難しいことでも、やると決めたらやる人だ」と理解してもらえるようになりました。また市政運営におけるさまざまな苦楽を共にする中で、信頼関係も強固になり、新しいチャレンジもスピーディーに進むようになりました。

国の改革がなかなか進まないのは構造的な問題ではないか

ただ国政の大臣であれば、なかなかこうはいかないでしょう。各省庁の職員たちには、長年にわたって築き上げてきた省庁のありようや国を支えてきたという官僚としてのプライドがあるはずです。

そこへ、過去に何のつながりもない人が、組閣の際に総理から任命され、大臣として突然やってきても、大胆な改革は極めて困難だと推察します。改革をしようとすれば、これまで築き上げてきた政策や制度を大きく変えさせていくことになるわけです。当該省庁の職員の信頼と協力が絶対に必要になりますが、顔は笑っていても、そう簡単に心からの信頼は得られるものではありません。

高島宗一郎『福岡市長高島宗一郎の日本を最速で変える方法』(日経BP)

また行政組織を動かしていくには指示の仕方など独特なノウハウが必要です。国会議員としては政策通として有能であったとしても、行政組織のマネジメント能力は全く別なのです。また政治の都合で、いつ大臣ではなくなるかもしれませんし、その省庁の長になるために選挙を戦ったわけでもないのですから、職員の目には厳しいものがあるでしょう。国の改革がなかなか進まないのは、そうした制度的、構造的な問題もあるのではないかと思います。

いずれにしても、行政組織で何かを大きく変える際、思いを共にし、それを成功させるために、リスクをとってでも一緒にやってくれる、一緒に戦ってくれる仲間の職員がいるかどうかは、とても重要なことなのです。

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