福岡市は2020年9月末、約3800の書類への押印を廃止する「ハンコレス化」を実現した。福岡市の高島宗一郎市長は「行政手続きをできる限り効率化し、職員という限られたリソースを、人のぬくもりが必要な部署に配置したい。この発想を職員が理解してくれたことが大きい」という――。
※本稿は、高島宗一郎『福岡市長高島宗一郎の日本を最速で変える方法』(日経BP)の一部を再編集したものです。
2020年9月末、約3800の書類への押印を廃止
2020年にアドビ社が行った調査により、「コロナ禍の影響で業務がテレワーク化したにもかかわらず、紙書類や押印のため、やむなく出社している人が6割にのぼる」ということがわかり、大きな話題となりました。それを受けて「ハンコ文化」を見直し、ハンコレスを推進したり、電子契約を導入したりする企業も増えているようです。
そんな中、2020年9月末、福岡市では、役所に提出する約3800の書類への押印を廃止し、国に先駆けて、ハンコレスを実現しました。
福岡市では数年前からハンコレスと行政手続きのオンライン化の取り組みを進めていたのですが、それは、市民のみなさんができるだけ役所の窓口に並ばなくて済むようにすることはもとより、高齢の方の増加に備えて、職員を福祉の相談など、人にしかできない業務にできるだけ充てていくためでした。
行政手続きをできる限り効率化し、職員という限られたリソースを、人のぬくもりが必要な部署に配置していくという発想です。
大半のハンコは「本人確認」の役割を果たしていない
この、行政手続きのオンライン化を進めようとしたときに、妨げとなったのが物理的なハンコでした。
しかし、よく考えてみてください。ハンコは、本当に本人確認の役割を果たしているでしょうか?
実は、役所に提出される書類の大半は、役所に登録した実印でなく、三文判でも何でも「押していればいい」とされています。ですから、極端な話、他人が役所の売店で売られている三文判を押して書類を提出しても、本人の申請として受理されてしまうのです。
にもかかわらず、市民も職員も、ハンコを押すことが慣例化してしまっており、誰も現状に対する疑問を抱くことがないまま、押印という儀式が続いていました。