6期連続増収、売上2倍、営業利益4倍を達成できたワケ

事業執行の最高責任者となった私は、今こそ、事業構造を大転換させる時だと考えました。この大嵐に立ち向かうには、従来の方針・戦略を転換し、新たな成長戦略を策定・実行するしかないと強く思ったのです。それは私が海外と国内の営業本部長時代にすでに考え、推進してきたことを、事業執行の最高責任者として一気に全社方針とすることを意味していました。

その方針は、全世界における「セイコーブランドの価値向上」による事業構造の大転換です。すなわち、従来の中価格帯〜普及価格帯中心の商品販売の事業構造から、高価格帯〜中価格帯中心の事業構造への大転換を図るということです。

そしてその中核となるブランドとして、50年間売上が低迷していた高級腕時計のグランドセイコーを、独自のマーケティング戦略により復活・急成長させて、グローバル化を推進しました。

さらに、中価格帯の上位ブランドとして、新商品のセイコーアストロン(世界初アナログGPSソーラーウオッチ)ビジネスの垂直立ち上げ、新たな市場(需要)開拓を目指した機械式時計のプレザージュ、そしてセイコーが得意としてきたスポーツウオッチのプロスペックスの3ブランドについても、グローバルブランドとしての推進を図りました。

まさに、3大逆風が「追い風」となって教えてくれた事業構造の大転換でした。

そして新たに考えた戦略を実行した結果、セイコーウオッチの業績は、2009年度を底として6期連続増収、売上2倍、営業利益4倍となり、同社発足以来の最高の業績を上げることができたのです。

事業復活のカギは「10の戦略メソッド」にあり

こうしてセイコーウオッチの腕時計事業はどん底からの復活を遂げました。その中核となったのが、セイコーの高級腕時計であるグランドセイコーの復活・急成長でした。

商品はそのまま変えず、その売上を5年で3倍にしました〈第1ステージ〉。

グランドセイコーは1960年に誕生したセイコーの高級腕時計で、50年もの間、売上が低迷していました。

しかしながら、高精度で高品質・高品位を誇る国産腕時計であり、3つのキャリバー(腕時計の心臓部)をもっています。

世界最高級の9Fクオーツ、同じく世界最高級の9Sメカニカル、そしてセイコー独自の駆動機構技術をもつ9Rスプリングドライブの3つです。

梅本宏彦『眠れる獅子を起こす グランドセイコー復活物語』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

グランドセイコーは、スイスなど外国製高級品と同等もしくはそれを上回る世界最高水準の品質を誇り、文字盤も見やすく正確で、つけ心地も良い究極の高級時計です。品質の高さについては、セイコーウオッチの社員も製造を担当する製造会社2社(セイコーエプソン株式会社、セイコーインスツル株式会社)も自信を持っていました。

そして取引先である一流小売店の人たちも、実はその品質の高さを評価していたのです。

それほど優れた腕時計なのに、なぜ50年間も売れなかったのか? まさに「眠れる獅子」です。「これは売り方を変えれば強力な戦力になる!」と、私は確信しました。