それでも「ミャンマーに残りたい」理由

一方、自宅で催涙弾による「攻撃」に遭った新町さんは、当面は日本に避難する考えはないと話す。

「私はエンターテインメントでこの国を盛り上げるため、7年前にミャンマーへ移住しました。決めたことを人のせいにはしたくない。ミャンマーに来て以来、この国の人々から受けた恩を思うと、自分の身の安全だけを考えて日本に逃げ帰るようなことはできません」

今のヤンゴンは、あらゆるところで発砲が絶えず、住民が国軍兵士により不当に拘束されたり暴行を受けたりしている。しかし新町さんは、地方へ疎開してでも、ミャンマーに残りたいという。SNSでミャンマーの惨状を発信している日本人の中には、新町さんと同様の理由でミャンマーにとどまっている企業家が少なくない。

軍政とのパイプを生かし交渉に当たったが…

日本国内でも目下、在日ミャンマー人とその支援者らが国軍の蛮行を許すまじと訴えるデモやPR活動が行われている。そんな中、丸山市郎駐ミャンマー大使は、軍が任命した外相であるワナ・マウン・ルウィン氏と会談し、アウン・サン・スー・チー氏らの解放などを求めた。

米国をはじめとする西側諸国が、国軍関連の資産凍結などをはじめとする「制裁」に舵を切る中、日本の外交官が国軍の“政権幹部”と接触し、現状の打開を促す申し入れを行ったことは評価できる。

しかしその後の対処がまずかった。

大使の面談以降、在緬日本大使館や東京の政府関係者はワナ・マウン・ルウィン氏の肩書きを「外相」と決めた。共同通信によると、日本は軍政と独自のパイプがあり、日本外務省は呼称の維持に「必要性」があるとしているが、在ミャンマー日本大使館のフェイスブックには「日本政府はクーデターを起こした国軍の不当な政権を承認するのか」などと抗議のコメントが殺到した。結局、外務省は文章を訂正する事態に追い込まれている。

日本政府は積極的な関与を

実は、日本の政権中枢とミャンマー国軍の幹部とは長年にわたり“良好な関係”を保ってきた。クーデター後に「国家元首」の地位に収まっているミン・アウン・フライン国軍総司令官は2019年10月、当時の安倍晋三首相を表敬訪問。その際、日本は「ミャンマーの民主化と国造りを全面的に支援」と伝える一方、同司令官は「(ヤンゴン郊外の)ティラワ経済特区への日本からの投資拡大に期待」と応えている。

目下、ミャンマーの民衆はもとより、世界各国が国軍の蛮行を抑える術を見つけられずにいる。日本が持つ「極めて親密な国軍との関係」を使って、国軍に利を与えることなく泥沼化している暴力活動を停止に持ち込んだら、日本外交の大きな成果となり得るのではないだろうか。

難しい舵取りや交渉が求められるが、日本政府の積極的な関与に期待したい。

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