見せしめ的な殺害行為もある。かねて「何体の遺体が集まったら国連は行動を起こすんですか?」と書いた紙を持ち、孤軍奮闘している姿が各国のニュースサイトに報じられた男性、ニーニーアウンテッナインさん(23)は2月28日、ヤンゴン市内のデモの主要スポット・レーダンで当局により射殺された。国際社会に向け、メディアに発信する人間は消される状況にある。

新町さんは、日本メディア各社が国軍や警察などの総称として「治安当局」と記していることについて、「治安当局と称して暴力行為を行う武装集団、と説明するのが正しいのでは」と憤る。治安という言葉は「安全・安心を治める」という意味だが、ミャンマーの治安当局は自らその治安を破壊している。

蛮行の矛先は子どもたちにも

そもそも国軍による弾圧は民衆を恐怖に陥れ、抵抗をやめさせ、その後は強権をもって政治を掌握するという前時代的なものだ。暴行、連行、不当な取り調べは言うに及ばず、拷問、強姦も行っている疑念がある。

その被害対象はデモ隊にとどまらない。ユニセフ(国連児童基金)は、「500人以上の子どもが恣意的に拘束されていると推定」「その多くは、人権を侵害され、弁護士のアクセスもない」と述べている。「恣意的に拘束」と書いているものの、実際には誘拐に近く、あるいは国軍がどこかの組織に子どもたちを売り飛ばす懸念もある。

国軍は、かつてこの地を植民地としていたイギリスのやり方を引き継いでいるように見える。帝国主義的な施政は、植民地に住む民衆をただ力で押さえつけてきた。ミャンマーは2011年にようやく民政移管されたが、それ以前の軍人の尊大さたるや、絶対的な権力で民衆には有無を言わさない態度が丸出しだった。

ミャンマーの最大の都市ラングーン
写真=iStock.com/Oleksii Hlembotskyi
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数千人が犠牲となった民主化デモと重なる

筆者は軍政下のミャンマーに中国から陸路で入国した経験がある。現地で対応に当たってくれた旅行会社の社長は「あなたが入国するに当たって、軍への付け届けが必要でねえ……」とボヤき、図らずも旅行代金の中に「ワイロらしき費用」が含められていたことが分かってしまった。

ミャンマーでは、民主化を叫ぶ民衆を暴行、虐殺することで国軍が権力を維持したことが歴史上で2度起きている。1988年の「8888民主化運動」では、僧侶と学生ら合わせて数千人が鎮圧の際に死亡。その後、2007年に起きた反政府デモでは死者と行方不明者が100人を超え、ヤンゴン中心部で取材していた日本人ジャーナリストが狙撃され亡くなっている。

連日凄惨な様子が報じられる現在のミャンマーは、こうした過去の姿と重なる。2月16日の記事で話を聞いた22歳の女子大生ナインさん(仮名)は「国軍がやっていることは昔よりひどい」と訴えている。