ところがカワサキによるとK3は2月1日の発売を待たず、全国の販売店からの事前発注分だけで、2年間で400台という販売計画台数の2021年度分(具体数は非公表)に達してしまったのだという。
そしてYouTube上のK3公式プロモーションビデオは、昨年11月の公開から約3カ月で36万回と、カワサキ全モデルの中でも異例の再生回数を叩き出したのだ。
なぜカワサキは「メグロ」を復活させたのか
事前発注分の車輛にはその大部分に対して購入予約が入っており、予約者の約80%が40歳以上。つまり、今はなき名門メグロへの知識や憧れを持っているライダー層が中心なのだが、ブラックと銀でまとまったレトロな車体デザインに直感的に惹かれ、購入を決めた顧客もいるとのこと。
さらに現在、多くのユーザーや販売店からK3増産の要望が続々とカワサキに寄せられている状況にもかかわらず、前述のようにタンクやエンブレムの生産工程が特殊であるため、調整に時間を要しているというのが何とも皮肉な話だ。
かくも好評を博しているK3なのだが、なぜカワサキは57年前に自らが吸収合併した会社のブランド名を突如、令和のこの時代になって復活させたのだろう。
ニューモデル情報に定評がある創刊49年のバイク雑誌『ヤングマシン』編集長の松田大樹氏が語る。
「いや、決して突如ではなく、前触れはあったんですよ。2019年の東京モーターショーや、現行型W800のプレス向け試乗会でメグロK2を展示したりと、カワサキは折々で『メグロ』の露出を図っていました。そして2020年、同社がメグロのロゴマークを全世界規模で商標出願したことで、バイクメディア関係者の間では『メグロの復活はほぼ確定』の見方で一致していたんです。カワサキはこのあたりの情報コントロールが非常に巧みで、それとなくメグロの露出機会を増やしていたというわけです。だからいざ正式発表となっても、『なんで急にメグロ?』といった唐突な印象がない。我々メディアをうまく踊らせてくれました(笑)」
他の国産メーカーとは異なる存在でありたい
では、そこまで周到な準備をしてメグロをリバイバルさせた真意とは?
「ブランド力の向上に尽きるでしょう。カワサキは、1924年に創業したメグロを1964年に吸収合併したわけですから、歴史的なバックボーンを持っていることをPRできます。また、メグロは国産では数少ない大型車専門メーカーとして誕生しましたから、単なる移動手段としての小排気量車を原点とする他の国内3大メーカーとは立ち位置が違う、筋金入りのビッグバイクメーカーなのだというアピールにもつながります」(松田氏)
近年のカワサキは、こうした『他の国産メーカーとは異なる存在でありたい』という意識が非常に鮮明なのだという。