「知らない人じゃないよ。毎日一緒にゲームをしていたから」
アオイが門限を過ぎても帰ってこないと慌てた両親は近所を捜し回った。
友だちとも遊んでいないことがわかると、いよいよ警察に捜索願を出すことに。
「最近、厳しく怒ってばかりいたせいかもしれない……」
父親と母親は自分たちを責め、眠れない夜を過ごした。
2日後の朝、警察から連絡があった。捜索の末、付近の防犯カメラから、アオイらしき女の子と男が歩く姿が映っていたのだ。
複数の防犯カメラの記録をつなぎ合わせ、男の車と自宅を特定。張り込みを続けていると、そこへ車に乗った男が帰ってきた。
後部座席には、体を丸めて震えている女の子が座っていた……。
娘のアオイが無事帰宅して、心からほっとした。
夫も私も、オンラインゲームなどやったことはない。もちろんスマホはよく使っているけれど。
オンラインゲームでチャットができること、知らない人と簡単に知り合えること、娘が犯人と連絡先の交換までしていたことは、事件の後で知ったことだ。
私たちは心を入れ替えて、娘を怒ることはしなかった。でも1つだけ、どうしても確認しておきたいことがあった。
「なんで知らない人と会おうと思ったの?」
娘からの返事を聞いて言葉を失った。
「知らない人じゃないよ。毎日一緒にゲームをしていたから」
娘にとって、今となっては、犯人はただただ怖い人かもしれない。でもそれまでは、ゲームを一緒にやってくれる、ゲームの強い頼もしいお兄さん。相談にも乗ってくれる優しいお兄さんだったのだ。
一度も会ったことがないのに。
簡単に“おじさん”と出会えてしまう時代
ここ最近、SNSやゲームがらみの子どもの誘拐や監禁事件を多く目にするようになりました。
犯人の多くは大人の男性。30代〜50代の、子どもからすると立派な“おじさん”が、子どもを連れ去り、ひどい場合は長期間監禁、最悪の場合は殺してしまうこともあります。
その2人の接点となるのが、SNSやオンラインゲームです。
読者の皆さんはおそらく、ほとんどが今の小・中学生の親世代でしょう。少し子どものころのことを思い出してみてください。
子どものころ、“おじさん”くらい年の離れた大人と知り合う機会がどれだけあったでしょうか。近所のおじさんか友だちのお父さん、習い事の先生くらいではないでしょうか。
当時の親は、子どもに対して「知らない人と話をしてはいけません」と言っていたものです。
ところが今はどうでしょう?
知らない大人と子どもが共通の趣味を通じて知り合うのが、当たり前になっています。子どもにとって、ゲームで一緒に遊ぶ人は、もはや“知らない人”ではありません。
子どもは、聞かれれば自分の名前や住所を教えてしまうでしょう。それがどれほど危険かということまでは、わからないからです。
常識的に考えれば、いいおじさんが小学生や中学生の女の子と知り合いたいとは思わないですよね。つまり、そういう男は、社会的な一般常識からずれているのです。
おそらくゲームという共通の話題がなかったら、何も話せないはずです。