そして、同伴競技者との能力差はその能力値の標準偏差を用いて差の大きさを示す。分析の大枠として、同伴競技者間の能力差が選手個人個人のスコアにどのような影響を与えるのか。また、特にどのような選手が強い影響を受けるのかを一般的な回帰分析で調べた。
分析の結果、同伴競技者間の能力差が1ポイント上昇する、すなわち上位33%の選手と下位33%の選手が競った場合、選手個人のスコアは平均的に約0.01打悪化することがわかった。特に、能力値が下位10%の選手に限ってみると能力差の拡大は約1.5打のスコアの悪化につながったことは先述の通りだ。
世界最高峰のPGAにおいては、1打の違いで賞金額が100万円単位で変化するためこれはかなり大きな影響と言えよう。
能力が低い個人は強い「負のピア効果」
しかし興味深いことに、この効果は能力が高い上位50%の選手では観測されなかった。つまり、同伴競技選手との能力差が広がることは、比較的能力が低い選手に限定的に影響が現れたことがわかる。
同伴競技者との能力差の拡大が選手にマイナスのピア効果を与える理由として、成績のよい同伴競技者がいることによって、自分の相対的な能力が低いという自己認識を持ち、パフォーマンスが低下するという可能性が指摘できる。
この結果は先ほど取り上げたGuryan,Kroft&Matthew J(2009)による研究と一致する。同伴競技者には勝てないという自己認識を持つことで、試合を通じて勝つことへのモチーベーションが低下し、プレー中に繊細なミスが増えたり、過剰に挑戦的な戦略を取るといったことによって、スコアが低下すると考えられる。
同じ組織内の個人同士の能力差が拡大することによって、全体としてスコアが悪化することがわかった。特に能力が低い個人は強い「負のピア効果」を受けることがわかった。
経済学で注目される「ピア効果」
近年、職場や教育現場におけるピア効果の分析は、海外を中心に盛んに行われている。しかし、正の効果が出るか、負の効果が出るのかは一貫性が無く、個別の事例によって異なる。実証研究の結果にコンセンサスが得られている状況にはない。
例えば、封筒に物を入れるといった単純作業をする際に、他者の作業スピードが上がると個人の作業スピードが上昇することや、寮のルームメイトの成績が個人の成績にプラスの効果を与えていることがわかっている。
一方で他の研究では、同じクラスの生徒の学力が上がると、生徒個人の成績が悪化することを示す研究もある。これは、自分以外の生徒の学力が高いと、自分の立ち位置を悲観して、学習への意欲が低下し、結果的に学習効果そのものが低下するからである。