安倍晋三首相はトランプ氏と親交を重ねながら、プーチン大統領にも取り入り、「トランプもプーチンも」の二股外交を進めた。安倍、トランプ両首脳が退陣した宴の後、安倍対露外交失敗のツケが回ってきた――。
写真提供=内閣広報室
2019年9月5日、ウラジオストクでの27回目の安倍―プーチン会談

「北方領土の日」に、菅政権下で領土交渉は後退

「北方領土の日」の2月7日、恒例の「北方領土返還要求全国大会」が、新型コロナ禍で規模を縮小してて東京・渋谷で行われる。だが、肝心のロシアとの領土交渉は、菅義偉政権下でますます後退している。ロシア側は安倍晋三政権末期から高飛車な姿勢を強め、「ゼロ回答」が続く。ロシア社会の反プーチン運動の高揚もあり、領土問題での譲歩はありそうもない。対露戦略の再検討が必要だろう。

菅義偉首相は就任から2週間目の9月29日にプーチン大統領と初の電話会談を行った。日本外務省の発表では菅首相は「日露関係を重視している。平和条約締結問題を含め、日露関係全体を発展させていきたい。北方領土問題を次の世代に先送りすることなく終止符を打たねばならず、プーチン大統領としっかりと取り組んでいきたい」と伝えた。

これに対し、ロシア側の発表では、「露日関係をあらゆる分野で前進させるために努力する意志を確認した」とあるだけで、領土問題や平和条約への言及はなかった。

2020年以降、コロナ禍で日露間の対面交渉は行われておらず、北方領土のビザなし交流も昨年は初めて中止された。

北方領土を要塞化し、領土割譲には「10年の刑」を科すロシア

菅政権発足後、ロシア側の対応はますます強硬になっている。ロシアは昨年、事実上の対日戦勝記念日を従来の9月2日から中国に合わせて3日に変更し、国後、択捉、色丹3島で対日戦勝75周年式典を実施した。菅首相とプーチン大統領の電話会談があった9月29日には、北方領土を含む地域で軍事演習が行われた。

昨年10月には、南クリル(千島)の防衛力強化のため、最新型の主力戦車T72B3の配備を開始。12月には、地対空ミサイルS300V4が択捉島に実戦配備された。射程は400キロメートルで、北海道東部上空も射程に収める。近年、最新鋭戦闘機スホイ35が3機、択捉島に配備されるなど、北方領土の「要塞化」が顕著だ。

ロシアは2020年7月、「領土割譲禁止」の条項を盛り込む憲法改正を行ったが、これを踏まえて違反した行為に最大10年の刑を科す刑法改正が制定された。今後、ロシア側交渉担当者は「10年の刑」を意識しながら交渉に臨むわけで、大きな制約となる。「領土割譲を呼び掛ける行為」も最長4年の刑だ。

こうして、第2次世界大戦の戦勝意識を高め、民族愛国主義を前面に出すプーチン路線が、領土交渉に大きな打撃を与えた。