BCGワクチンによる訓練免疫の効果

それに対し、新型コロナウイルスによる甚大な被害を受けているアメリカやイタリアでは、BCG接種を義務づけてきませんでした。また、欧州では多くの国が1970年代以降、BCGの接種を中止していたのです。

118カ国のBCG接種状況と新型コロナウイルスの被害状況との関連性を調べた、昭和大学の大森亨准教授の研究によれば、感染者数の増加速度で約1.7倍、死亡者数の増加速度で約2.4倍の差が生じていることがわかっています。

BCGが新型コロナウイルスを抑えるメカニズムは明確になっていません。しかし、以前からBCGが免疫力を強化し、とくに乳幼児では結核以外の病気に対する耐性を高め、死亡率を半分にしていることがあきらかになっています。

また高齢者に対しても、呼吸器への感染を減少させる効果があることが報告されています。

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さまざまな研究から、BCGには免疫系を訓練して、活性化しやすい状態にする効果があると考えられているのです。

「メモリーT細胞」の存在

もうひとつのアジア圏におけるファクターXは、「交差免疫」です。

アジア圏では、過去にも別種のコロナウイルスに感染した経験のある人が多く、新型コロナウイルスに対して獲得免疫が機能したのではないか、と考えられています。

このように、近縁のウイルスで得た獲得免疫が機能することを「交差免疫」といいます。近年に確認されたコロナウイルスは7種類あります。

・新型コロナウイルス
・SARS(重症急性呼吸器症候群)……2002年に中国で発生
・MERS(中東呼吸器症候群)……2012年にアラビア半島で発生
・そのほか、4種類の普通の鼻風邪ウイルス

これらはすべて、コロナウイルスの仲間たちです。前半の3種類は下気道(気管・気管支・肺)に感染し、肺炎などの重篤な症状をもたらすコロナウイルスですが、あとの4種のコロナウイルスは上気道(鼻・口・咽頭)に軽い風邪の症状を起こすだけ。

日本の風邪のなかではライノウイルスに次いで2番目に感染が多い、ありふれた鼻風邪のウイルスです。おそらく、多くの方に感染の経験があるはずです。

新型コロナウイルスも、SARS、MERS、鼻風邪のウイルスも、同じコロナウイルスである以上、遺伝子の構造は似通っています。

そのため、別のコロナウイルスの情報を記憶した「メモリーB細胞」や「メモリーT細胞」などの免疫細胞が、新型コロナウイルスにも共通する目印を見つけて対処したのではないかと考えられています。