「おせっかいでうるさい」がある台湾のよさ
前述したように、台湾には「鶏婆」という言葉があります。これは「母鶏のようにおせっかいでうるさい」という意味で、台湾においては重要な価値観になっています。マイノリティにとって、この「鶏婆」という概念が、非常に大事だと思うのです。
マイノリティであるからといって否定され、それによって自信を失う必要はまったくありません。むしろ、マイノリティであるからこそ、多数派の人たちに対して「私たちはみなさんとは異なる見方をしている」「みなさんには見えない問題が見える」ということを訴えることができるわけです。その内容に説得力があれば、あるいはその視点が合理的と受け入れられれば、社会はより良いものになっていくはずです。
「ピンク色を笑われた」男の子に、コロナ対策の指揮官は…
台湾では先日、「自分の息子がピンクのマスクをしていたら、学校で笑われて恥ずかしい思いをした」という母親の悩みが新型コロナウイルス対策のホットラインに寄せられたことがありました。その訴えを聞いた中央感染症指揮センターの指揮官たちは、翌日の記者会見に全員がピンクのマスクをして臨みました。そして、「ピンクは良い色ですよ」と報道陣に向かって語りかけたのです。陳時中指揮官は「私は小さい頃、ピンクパンサーのアニメが大好きだったよ」とも付け加えました。
その結果、SNS上では、多くの台湾企業や個人が起業ロゴやプロフィール画像の背景をピンクに塗り替えて、政府を支持する動きまで出てきました。これにより、誰もがピンクのマスクを受け入れるようになったのです。
このように、台湾には寛容とインクルージョン(包括)の精神があります。「マイノリティの人たちが多数派に対して具体的な提案を行えば、多数派は喜んで耳を傾ける」という土壌が存在するのです。このピンクマスク事件は、私にとっても、社会がどのような動きをするのか、どのような仕組みを持っているのかを理解する良いきっかけになりました。
なぜ、同性婚が法的に認められたのか
共同の経験を重ね、お互いの理解が深まることにより、それ以前と関係が変わってくることがあるように思います。こうした変化は一つの国の中でも起こり得ることです。
最近の台湾における最大の対立は、婚姻の価値についてのものでした。具体的に言えば、二〇一八年に行われた住民投票で、結婚は「家と家の問題」か「個人と個人の問題」かで意見の対立が起こりました。さらに私の記憶では、同性婚に関する対立が最も大きかったように思います。