理由その1「誇張された予想バイアス」

私たちはどうも「極論」が大好きなようです。

本来なら発生する確率が低い事象にもかかわらず、それが起こりうるかのように考えてしまう傾向を「誇張された予想バイアス」と呼びます。

【誇張された予想バイアス】Exaggerated expectation bias
実際には起こりにくい「極端な想定」が、現実に発生すると考えてしまう傾向。先
んじて入手した情報を誇張して受け止めてしまうのです。現実は、想像ほど深刻で
はないことも多く、極端なケースばかり起きるわけではありません。
●具体例「大地震が起きるかもしれないから家は買わないほうがいい」「事故にあうかもしれないからバイクには乗らないほうがいい」などと考えてしまう場合がありますが、起こる確率が極端に低い最悪の事態のことばかり考えていると、正しい判断ができなくなってしまいます。新型コロナウイルスを受けて最悪の事態に備える重要性が叫ばれていますが、一方であらゆる事態において「最悪」に備え続けると、「最悪」が起きなかった場合に肩透かしを食らうかもしれません。

「事実は小説より奇なり」といいますが、実際には人々が事前に想定する「極論」よりも現実は穏当すぎて面白くないことのほうが多いと思います。

写真=iStock.com/ozgurdonmaz
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池袋暴走事件では当初、なぜ容疑者を逮捕しないのかについて警察からの公式発表がなかった点が、様々な憶測や「陰謀論」を許容する土台になりました。警察側もできる限り積極的な情報公開を行っていれば、一般国民のあいだでこれほど「上級国民叩き」が広がることはなかったかもしれません。

理由その2「共有情報バイアス」

目に見えている範囲の出来事だけが事実ではありませんが、捜査の都合で公開されていない事実の存在を無視したまま、「上級国民は逮捕されない」と短絡的な結論に飛びついてしまったのではないかと思います。

自分が知っている範囲内だけで議論する傾向を「共有情報バイアス」と呼びます。

【共有情報バイアス】Shared information bias
ある集団内で既に共有されている情報については議論されるのに、共有されていない情報については議論されない傾向。集まったお互いが「何を知らないか」を「知らない」ので、情報共有がされないまま意思決定に至る場合があります。特に緊急事態においては共有をしている時間もないので、お互いが「知っている前提」で話し合い、さらに混乱を招くのです。
●具体例「将来、私たちのビジネスはどうなるか」といった未知の物事が多い議題は議論が進まず、「今のオフィスより賃料が安い物件に引っ越すべきか」「駐輪場代金を会社で支払うべきか」といった具体的で既知の物事については議論が盛り上がります。

「元キャリア官僚が事故を起こしたが逮捕されていない」という点だけが共有されていて、「上級国民の犯罪が実際はどう取り扱われてきたのか」「捜査情報のうち共有されていないものがあるのか」については共有されないまま、「上級国民叩き」ブームが過熱していきました。