平木には開発当初から、「付かず離れず」一緒に仕事をしてきた現開発本部建機第一開発センタ環境商品開発グループチーム長の井上宏昭がいる。平木が本社勤務になってから3年半後の04年末、井上にとっても驚天動地の人事を平木本人の口から聞く。
「年末、(社内の)技術検討会で僕が発表した後に、平木さんが『井上、井上』と呼ぶんですよ。何事かと思っていると、耳元でこうささやいたんです。『わしは来年から、開発センタにGMで戻ることになった。今後わしが言うことは、直属の上司の言葉だと思って聞いてくれ』と。えっ、技監がGMで戻ってくる? まさか、と本当にびっくりしました」
05年1月に正式な辞令が出て、平木―井上コンビのハイブリッド開発が再スタートした。その際、平木はハイブリッドの開発部隊に向かって、こう宣言している。
「ただのアドバルーン車やプレゼンテーション用のクルマではなく、最終商品として世の中に出せるクルマをつくる。とにかく、お客の手に届くまでのものに仕上げてみせる」
この言葉を聞いて、平木が技監で本社に去った後、方向性がもうひとつ定まらなかった開発の目標が明確になり、「あれで開発者全員が吹っ切れた」と井上は語る。
プリウスやトラックのハイブリッド車を研究
同じハイブリッドでありながら、乗用車と建機では似て非なるところがある。エンジンと電気モータを併用して車輪を回転させる点は乗用車と同じだが、「働く機械」である建機には、ショベルを旋回して作業する重大な任務があるからだ。
もう少しわかりやすく説明すると、油圧ショベルが土を掘って別の場所に運ぶ作業をする場合、平均7秒に1回はブレーキが使われる。その際に発生するエネルギー量は、時速60キロで走る乗用車がブレーキをかけた場合に相当する。
つまりハイブリッド建機は、ショベルが旋回して小刻みにブレーキをかける際に発生するエネルギーを電気に変換、この電気をキャパシタ(蓄電装置)に貯めておき、建機の駆動エネルギーとして再利用する仕組みだ。しかも重さ1.5トンの乗用車に対して、油圧ショベルは10倍以上の20トンもあるだけに、ハイブリッド機構を流れる電圧が格段に高くなり、それに合わせた独自の仕様が必要になる。