また4年前、社員が勤務時間を柔軟に設定できる「フレックスタイム制度」を廃止した。社員の出勤・退社時間がバラバラだと、限られた時間内にしかミーティングや顔を合わすことができない。今この瞬間に相手に伝えたいことを伝え、決めたいことを一緒に決めたいと思っても、タイミングがズレ、このズレが重なって大きなブレが生じる。
実際、技術者同士が部門を超えて情報を共有し、開発効率を高めていこうとしたときネックになった。育児や介護などの問題を抱える社員には短時間勤務などの制度を用意しているが、今は全社員午前8時半に出社する定時勤務である。必要なのは社員が「瞬間の時間」を活かせる仕組みと風土を定着させることだ。
「瞬間の時間」の重要性を実感したのは、30代で一眼レフカメラの生産拠点だった福島工場で、課長を務めたときだ。協力会社からの納品日が迫る。部品の出来から、使えるか使えないかその場で決めないと工場が止まる。瞬時の判断の遅れが大きな遅延を招く現実を体験した。
瞬時に判断するには明確な目的志向と判断基準が必要であり、私の場合、ラインを止めないことを最大目的に「四分六」の加減で判断した。100%の確証はなくとも自分の責任範囲内で「六分正しい」と思ったら決断する。生産現場ではそのくらいの基準で判断して問題なく回った。その権限を与えられていた。
目的と判断基準は立場、立場で異なる。開発部門なら2割くらいの可能性でも決断しないと差別性は出せないし、川上の研究部門では1%でも可能性が見えれば挑戦すべきだろう。トップになると専門部門の役員と意見調整もしなければならないが、最終的には不透明なリスクを自分の責任範囲でどこまで抱え込むかだ。
その点、いわゆる頭のいい人はいろいろ考え、なかなか決断しない。時間をロスする。頭のいい人が必ずしも「瞬間の時間」の使い方がうまいわけではない。