マーケットの動揺で円高が進む可能性
もちろん、急転直下、英国とEUが通商協定で妥協する可能性もなくはない。7月は毎週、英欧は交渉を行う予定だ。とはいえ両者の認識の隔たりは大きく、妥協が直ぐ成立する見込みは立たない。それに協定で合意できたとしても、それを年明けから発効できるかどうかは別問題であるし、実現できたとしても天文学的な確率だろう。
確かに英国はEUに対して移行期間の年内打ち切りを表明したが、一方でEUは延期の門戸を開き続けている。ジョンソン政権としては、国内の岩盤支持者層に対するアピールの観点から、EUに対して強硬な姿勢を堅持するとみられる。しかし同時に、その裏で、移行期間の延長に関する協議を重ねる可能性が高い。
英国の一連の離脱関連法には、移行期間を延長しない旨が明記されている。とはいえこれは、改正すれば幾らでも破棄できる性格でもある。そのため、延長のハードルはそれほど高くはない。そうであるからこそ、伝家の宝刀は最後まで抜かず、年末のぎりぎりまで通商協議を続けたいという思惑を、ジョンソン政権は持っているのだと考えられる。
移行期間の年内打ち切りというメッセージは、本来ならマーケットの動揺を誘っても良いものであった。しかし実際は、マーケットは特に反応せず、ポンド安や株安が進んだわけでもなかった。投資家の多くが、ジョンソン政権が移行期間の年内打ち切りを表明することを十分に想定していたということなのだろう。
むしろ残り半年の間、情勢が二転三転する可能性を投資家は見越していると考えられる。もちろん、通商協議が破談となりWTOルールを受け入れる可能性が意識されれば、マーケットは動揺しポンド安が進むだろう。当然、グローバルなリスクオフの起点となり、円高が進む要因になり得る問題である。引き続き動向をウォッチしたい。