左派政権による「太陽政策」の時代

文在寅(ムン・ジェイン)政権は、左派政権である金大中政権・盧武鉉政権の対北朝鮮融和政策である「太陽政策」(イソップ物語の「北風と太陽」に由来)の継承を掲げ、究極的には北朝鮮との「経済統一」を目指している。ただし、金大中・盧武鉉両政権が行うことができたのは「北朝鮮への一方的な支援」だった。

「一方的な支援」の具体的な内容のひとつとして、金大中政権時代の1998年から10年間続いた金剛山観光事業がある。事業の権利費だけで、韓国の財閥から約4億8000万ドル(約513億円)が北朝鮮へ渡された。

さらに、金大中・盧武鉉両政権は2000年から2007年までの間に、北朝鮮に対して借款形式(10年据え置き・20年償還・年利1%)でコメ240万トンとトウモロコシ20万トンを提供した。これら食糧借款の規模は、総額7億2004万ドル(約790億円)に上った。

しかし、北朝鮮が約束を守って借款を償還することは考えられない。そのため、こうした「北朝鮮への一方的な支援」はさすがに韓国国内でも問題となり、2003年に対北送金特検法が可決され、盧武鉉大統領がこれを受け入れて本格的な捜査が始まった。この捜査の対象は、後述する秘密口座への分散入金も含まれる。

カネで買った南北首脳会談

2000年6月の史上初の南北首脳会談は、対北朝鮮事業を推進した韓国の大財閥・現代グループを通じて行われた。金大中大統領が会談の開催に合意したのは、総選挙の3日前。首脳会談を選挙に利用したわけだ。なお、盧武鉉政権時代の2007年に第2回南北首脳会談が開催されたのも、大統領選挙の目前だった。

しかし、史上初の南北首脳会談から2年もたたないうちに、首脳会談を「カネで買った」との疑惑が持ち上がる。

韓国の保守系雑誌『月刊朝鮮』は、2002年5月号で米国議会調査局が作成した「米韓関係報告書」をもとに「南北首脳会談のため、政権は韓国の情報機関・国家情報院を使って香港、マカオなどの金正日の秘密口座へ“分散入金”を行った」と報じた。金額は4億5000万ドル(約480億円)だった。

これは、現代グループが北朝鮮での事業のために北朝鮮側に支払った巨額の現金とは別のもので、この事実はその後、韓国の特別検察の調査でも明らかになる。

韓国政府は2010年12月2日、金大中・盧武鉉両政権当時、北朝鮮に送金された資金の総額が29億812万ドル(約3099億円)に上るとの集計結果を発表した。これは同時期に、中国が北朝鮮に支援した19億ドル(約2030億円)の約1.5倍に相当する。