「対南事業を対敵活動に変換する」と強調
6月8日には朝鮮労働党の金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長と金与正第1副部長が会議を開き、「南朝鮮(韓国)当局はくず(脱北者団体)たちの反共和国行為を黙認し、北南関係を破局的な終着点に追い込んだ」「対南事業を対敵活動に転換する」と強調。段階別の対敵活動計画を審議した。
その「対敵活動」の第一弾として、会議の翌日(9日)、北朝鮮は南北を結ぶ全ての通信回線を遮断した。遮断されたのは、開城(ケソン)の南北共同連絡事務所の通話回線、軍当局間の専用回線、党中央委員会本部庁舎と韓国大統領府間のホットラインである。
さらに、同月16日には第二弾として、南北共同連絡事務所を爆破した。同事務所は2018年4月の板門店での南北首脳会談の合意に基づき、韓国側の資金で同年9月に開所した。同事務所では、南北の当局者が平日午前9時と午後5時に定時連絡の通話を行ってきた。
ビラの散布は以前から継続的に行われていた
通信回線の遮断は、韓国の脱北者団体による体制批判ビラの散布がきっかけとする見方がある。しかし、脱北者団体は2010年以降だけで90回以上、合計2000万枚以上のビラを散布しており、今回が特別というわけではない。
韓国の通信社「聯合ニュース」が報じたところによれば、脱北者団体はビラだけでなく、韓国の発展した様子がわかる映像、北朝鮮では珍しい即席カップ麺、1ドル紙幣なども飛ばしている。映像の場合、以前はDVDを用いていたが、パソコンの普及を反映してか最近はUSBメモリーを使うようになったという(聯合ニュース2020年6月11日「脱北者団体 北朝鮮に向け10年で2千万枚超のビラ=韓国」)。
こうした背景からして、体制批判ビラの散布だけが、北朝鮮の強硬姿勢を招いたことではないとわかる。北朝鮮の内部事情が関係していると考えるほうが自然だろう。