慰安婦問題を巡る、韓国側の“無理筋”とは
だがその「広義の強制性」の中には日本帝国内における被支配圏(朝鮮、台湾等)の厳然たる所得格差と貧困が背景に存在しており、そういった貧困や格差の中、やむなく女性たちが戦時性暴力の中に組み込まれていったことは揺るがない事実なのである。そしてそういった悲劇の女性たちが、あの戦争中沢山存在したことは、戦後すぐの段階ではしいて声を上げるという社会の雰囲気が醸成されておらず、しかし日本でも朝鮮でも台湾でも、そうした女性たちの存在は一般に知られていた。よって秦はこれを「(慰安婦は)点景として存在した」と述べているのである。
1965年の日韓条約で、日本は朝鮮統治時代に半島に残留してきたインフラや財産等の請求権を放棄するとともに、韓国側も日本の被支配時代における損害賠償請求権等を放棄した。このようにして、戦後の日韓関係は再スタートした。日本側は慰安婦問題について常に、「日韓条約で解決済み」と主張する。理屈としては筋が通っている。一方韓国の進歩派は「日韓条約が締結された当時、韓国は朴正熙の軍事政権であり協定は無効である。少なくとも個人請求権は放棄されていない」とする。流石にやや無理筋である。
自らが日本政府の公式見解を否定する右翼たち
しかしながら日本が朝鮮半島を植民地統治した事実は揺るぎが無く、この問題で日本が道義的に加害者の責を負うことはだれが見ても明白である。よって両国の歩み寄りと交渉の末、2015年にいわゆる慰安婦日韓合意がなされた。その合意文章の中で、日本政府は「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している」と明記した。その後、韓国側の政権交代で事実上この協定が破棄されるに至ったが、結局のところ日本政府は軍の関与も、慰安婦の存在も、戦時性暴力も認めている。こういった問題が起こるたびに「慰安婦は捏造だ」とか「慰安婦はいなかった」などの大合唱が日本の右派から起こるのは、自らが日本政府の公式見解を否定するのみならず、国際社会に対して日本の右派は歴史修正主義者の衆にすぎない、とのイメージを与えることになり逆効果に他ならない。
最終的な着地点は…
むろん、私としては心情的な部分はあるだろうが、韓国政府が慰安婦日韓合意に戻ることを期待している。最終的にはそこしか着地点は無いと考えるからだ。しかし歴史認識とは加害者、被害者どちらか一方の視点で語られるものでは無い。多面的な認識を持たなければならない。
もし仮に、日本が中国共産党の植民地として35年間統治されたとする。消費税はゼロになり福祉は充実し、地方の疲弊は概ね解消された。だが中国共産党が勝手に始めた戦争に日本女性が従軍させられ、そこに不服ながらも女性側の同意や、給与支払いがあり、条約が締結されて相手方が「法的に解決済み」としたとしても、日本大衆は中国共産党に何のわだかまりも持たないと言えるだろうか? 中国人民解放軍に従軍した同胞女性に「あれは単なる売春婦だ」などと下品な言葉を投げつけられるだろうか? そういった想像をしてみた後、それでも「YES」と述べる者のみ、韓国政府に石を投げよ。歴史とはそんなに単純なものでは無い。