〔4〕過去に縛られない

シナリオプランニングは過去を振り返らず、将来を考えるものである。過去の事象に基づいたシナリオからは、学習経験は得られない。専門家は、最良のシナリオは現実性と意外性を兼ね備えていると指摘している。現実性が重視されるのは、未来に決して起こりえない事態をあえて考えることを避けるためだ。また、意外性が同様に重要なのは、作成者の創造力を刺激し、通常は考えたこともない可能性について踏み込むことを可能にするからだ。

シナリオプランニングのコンサルティング会社、グローバル・ビジネス・ネットワークは、「そんなことは起こりえないという考えを断ち切ること」が必要だと言う。

危機や災害が発生すると、それらは組織の集団的な記憶として迅速に固定化されるが、危機に潜む多様な展開の可能性については記憶されない。しかし、シナリオプランニングが生み出す多彩なイメージには「古いステレオタイプを打ち破る力があり、創造者は所有者意識をもってそれらのイメージを機能させる」。

〔5〕予行演習が可能にある

 「消防士は、実際にはシミュレーション訓練どおりに事が運ぶことはありえないとわかっている」とシューメーカーは言う。つまり、彼らは「未来の記憶」を持っているわけだ。この未来の記憶の重要性を説いているのが、紛争の仲介・解決サービスを提供するビジネス・メディエーション・アソシエーツの創業者兼取締役で心理学者のデヴィッド・ゲージである。彼は仮想未来の事象に自分自身を投影させるシナリオプランニング演習は、大変有用であると言う。緊迫した感情とは無縁に役割や反応および責任分担についてチームのメンバーと議論できるからだ。シナリオが計画どおりに展開しなくとも、「様々な極限状況下における対処方法について、チームは互いに多くを学んでいる。実際に危機が起こったときにも他のメンバーの行動によって動転させられる危険がなくなるだろう」。

不確定要因をそのままにしない

生物学者のルイ・パスツールは、「好機は準備のあるところに訪れる」と書いた。組織の未来が、相互に関連し合う多くの不確定要因によって形成されることを認識する指導者は、特定のシナリオ、または未来を左右する微妙なサインを感じ取れるようになる、とシューメーカーは言う。リアルタイムの展開が想像したシナリオから逸脱したとき、それを感知してコースを軌道修正する心構えを持っているからだ。

シナリオプランニングは、世の中の動きの底流に潜む「環境指標」が、企業の主要なパフォーマンス指標にいかに影響を与えるかを、理解するのに役立つ。これらの指標がどのように企業戦略を形成するかを、検討することによって初めて、自社の戦略に安定性と柔軟性が備わっていることを確認できる。

※参考文献
『Winning Decisions : Getting It Right the First Time』 J.Edward Russo and Paul J.H.Schoemaker(2001年)
『Profiting from Uncertainty :Strategies for Succeeding No Matter What the Future Brings』 Paul J.H.Schoemaker(2002年)
『The Art of the Long View : Planning for the Future in an Uncertain World』 Peter Schwartz(1996年)

(翻訳=ディプロマット)