中国のSNSで「くまのプーさん」に触れるとすぐに削除される。習近平国家主席に似ているとネット上で話題になったからだ。中国ではこうした書き込みを200万人以上の「サイバー監視員」がチェックしているという。ジャーナリストのマーティン・ファクラー氏が解説する――。

※本稿は、マーティン・ファクラー『フェイクニュース時代を生き抜く データ・リテラシー』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

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キーワードはすべて「金盾」が監視している

中国共産党が一党独裁体制を敷く中国本土では、サイバー・セキュリティや検閲が徹底的に行なわれている。グーグルやツイッター、フェイスブック、ユーチューブ、LINEなど自由主義陣営が作ったサービスは中国では基本的に使えない。中国でネットを自由に使いたければ、VPN(Virtual Private Network)サーバーを経由してネットにアクセスするといった裏技が必要だ。

かわりに中国では、国内のIT企業が作った検索サービス「百度」(バイドゥ)や、「微博」(ウェイボー)、「微信」(ウィーチャット)といったSNSを使わなければならない。これらのサービスで交わされるキーワードやメッセージ、動画は、「金盾」(Great Firewall=グレート・ファイアウォール)と呼ばれるシステムによってすべて監視されている。有名な禁句は「くまのプーさん」だ。

13年3月に習近平が国家主席に就任すると、外見が「くまのプーさん」に似ていることが中国のネット上で話題になった。それ以来、中国で「プーさん」に触れるのはタブーとされている。「プーさん」の映像や写真が投稿された瞬間、SNSの運営会社はただちに削除しなければならない。だから中国国内では、いくら検索をかけてもネット上で「プーさん」を見ることができない。

「終身制」という言葉も使えない

習体制に批判的な人は、動物のクマの話をしているフリをしたり、言葉を換えて風刺表現を試みる。しかしイタチごっこのように、当局は「このシンボルはこういう意味があるのか、では国内での使用を禁止しよう」というふうに情報を常にアップデートして、検閲を強める。

18年3月、中国は憲法を改正して国家主席の任期(2期10年)を廃止した。これにより習主席は生きている限りその座に就くことが可能になったため、中国のSNSでは「終身制」という言葉を使った投稿まで禁止されている。一党独裁体制に異を唱える意見は、中国ではまったく口にすることが許されない。ソーシャル・メディアでの言論の自由がないのだ。