観光業界も試練の時を迎えている
本来2020年は空前のかき入れ時だったはずの観光業界も、新型コロナで一転、試練の時を迎えている。五輪は1年の延期が決まったが、業界の先行きには不安が立ち込める。
当初は海外、おもにインバウンドを牽引してきた中国からの旅行客減の影響が懸念材料だった。そのため、国内観光の総需要約26兆円のうち約21兆円を占める日本人の国内観光需要に期待をかける業界関係者の意見もあったが、日本人自身の移動を制限する状況となると、話は変わってくる。緊急事態宣言期間に頼みのゴールデンウイークがすっぽり入ってしまったことで、観光業界は見通しの練り直しが必要となる。
また、消費者マインドを考えても、緊急事態宣言期間明けに爆発的に旅行需要が伸びるとは考えがたい。特に、日本からの海外旅行需要は絶望的だ。
「20年3月中から、午前中には渡航を受け付けていた国が、午後には日本からの渡航禁止を発令するなど、渡航先の国の事態が刻々と変わるため、その都度、対応に追われました」(旅行代理店関係者)
20年4月に入って、状況はさらに悪化。状況の好転を期待して予約を受け付けていた海外の旅行商品に関しても、催行中止が相次いでいるという。
「国内旅行に関しては、20年3月中旬ごろまでは『今しか空いていないから』と国内旅行を敢行される方がちらほらいらっしゃいました。例えば自家用車で行けば感染の心配も少ないだろう、と。しかし緊急事態宣言となればそうはいきません」(同)
政府は観光業界を支えるべく1.7兆円規模で1泊2万円とした国内旅行の宿泊代や現地の食事代、土産代などの補助に充てる施策を打ち出している。このほか「GO TO TRAVEL」と称するクーポン券の配布も検討されているが、効果は未知数だ。
旅客需要の減少で大打撃を受けているのは航空業界も同じだ。薄利多売で厳しい価格競争を戦ってきたLCC(格安航空)は、相次ぐ運休や減便に耐える体力がなく、すでにギリギリまで効率化を行っているため、淘汰や再編が予想される。
国際航空運送協会(IATA)は20年3月5日、新型コロナの感染拡大の影響により、航空会社の旅客事業に1130億ドル(約12兆2000億円)の損失が発生する可能性があるとのリポートを発表。これほどの規模の打撃となれば、JALのようなナショナルフラッグキャリアや、それに類する大手航空会社もダメージは免れない。JALは緊急事態宣言を受けて20年4月8~12日の間、44%の減便を行っている。
また、新型コロナ蔓延の原因をグローバル化に求める向きからは、全世界にまたがるサプライチェーン(部品供給網)や食料品の輸出入など、人だけではなくモノの移動それ自体がリスクだと指摘する声もある。どこか一国が転べば、複合的、連鎖的に危機が及ぶからだ。