営業マンが商品を説明するときも同じである。自社商品をわかっているのは当然で、商品の良さをダラダラ言っても相手には伝わらない。お客様はその商品について何の予備知識もないので、相手の関心度、理解度を見ながら臨機応変に説明の仕方を変えていくことも必要である。表情などをよく見て「ここに興味を持っていそうだな」という部分があれば、そこに的を当ててポイントを3点に絞って伝えること。相手の顔色を見ながら、「このあたりはわかっていないかな」と思うところがあれば、そこをわかりやすく重点的に説明するのである。

どんなサービス業でも、「No」で始まるサービスはない。まず、どんなことであってもお客様の要望は「Yes」で受けるのが基本だ。たとえ「カラスは白い」と言われても答えは「Yes」である。そこには必ず事情や理由があるので、最初から「いや、そんなことは絶対にありません」と答えてしまえば話はその先に進まないし、その時点でサービスはストップしてしまう。「はい」は相手を受け入れる気持ちの表れであり、その人をいちばん美しく、品位を高める言葉なのである。ひとまず「Yes」で受けたあと、お客様の相談内容を聞きながら対応策を考えるようにする。難しいようであれば「Yes,but...」(はい、かしこまりました。しかし……)と続け、できない理由を説明するとともに代替プランを提案してはどうだろうか。

たとえば、明日の花火大会を屋形船から見たいというお客様がいたら、おそらく予約でいっぱいだろうと思っても、「はい、かしこまりました」と応じる。そして空きがないことを確認して「よろしければ、花火がよく見えるこんなレストランがあるのですが……」と代替案を持ちかけるのである。

私がベルキャプテンをしていた頃、お客様が取っ手の壊れたスーツケースをお持ちになり「この取っ手を明日までに直してくれないか?」と相談されたことがあった。私たちは翌日までに直すことはできず、答えは残念ながら「No」でその場は終わってしまった。ところがその後、香港のマンダリン オリエンタルホテルに研修に行ったとき、同じように翌日帰るお客様の取っ手の壊れたスーツケースが持ち込まれたことがあった。コンシェルジュの答えは「Yes」。彼らは修理できる特別なルートを持っていて、翌日どころか2~3時間で修理して届けてしまった。香港のホテルはチップの習慣があり、コンシェルジュたちは個別にチップをもらう。チップ総額は給料を上回るので、「No」と言えば、収入が増えなくなってしまう。そこで、どんなことでも対応する手厚いサービスを提供しようとするのである。