在宅勤務時代の「横並び、先送り、やったアピール」上司とは
そして問題となるのが、コロナ災禍という転換期にいるのに社内の体制を決められない上司である。この人種はここかしこに存在し、多くの困難を周囲に与える。彼らの行動は以下の3つの戒律から構成される。
戒律1:「ファーストペンギン」には絶対にならない
決められない上司はよそにお手本を探す。昔流行した言葉で言うならば「ファーストペンギン」には決してならない。他社、他部門がハンコによる押印承認を廃止しないのならば、自分たちだけが違う行動をとることや異議を申し立てることは決してしない。横並びが調整能力を構成する大事な軸だからである。
新しい仕組みを自分が率先して作るなぞはめっそうもない。それは戒律違反である。今までのモデリング(※)の結果、最重要行動は周りに従うことだと長年学習し、さらに強化されている。部下がそのために通勤電車に乗ろうと、「規則だから仕方ない」のだ。
※モデリング:心理学でいう何らかの対象物を見本にして真似をし、自分の行動を強化すること。アルバート・バンデュラ(1971)によって提唱された。
この種の決められない人が企業の中枢にいると、企業も他社の行動に足並みをそろえようと必死になる。他社の状況は大事な情報だけれども、意思決定の本丸ではない。しかし、決められない人々、その種の人々が中枢にいる企業や個人にとっては、他者や他社と一緒であるという事実は重要な、外してはいけないポイントなのだ。一人で違うことをやったら、誹りを受けるのは1人だけれど、皆でやったら分散するからである。
戒律2:先送りを好む
決められない上司は先送りを好む。調整できないことはやらない方が得であると、学習してしまっているからである。リスクをとって新しいことを意思決定するのは戒律に反する。失敗して自分の業績の汚点となるといけないから、ともかくおとなしくつつがなく過ごし、嵐が通り過ぎるのを待とうする。
「コロナは夏になると終息する」とか「日本人は感染しにくい」といった信憑性が低い予測や情報に飛びつき、何も意思決定せずに現状維持を決める上司や、「Web会議では本当に大事な情報は話せないから、とりあえずこのままにして次回会ったときに決めよう」と在宅での仕事の進行を妨害する上司の行動はこれにあたる。
これらの行動を心理的に後押しするのが、「双曲割引の意思決定バイアス」と呼ばれる心理である。現状では成功はむずかしいが、未来にはきっと劇的に状況変化をしているだろうから、その時にやった方が得策だと自分を納得させるのだ。そして、未来に状況が良くなっている保証は全くない。
戒律3:やったアピールのエビデンスを残す
決められない上司は、小さな「やったアピール」を忘れない。調整は文字通り、さまざまな部署が少しずつ我慢したり、主張したりして1つの方向に向かうことである。これには誰が何をどれだけ我慢したか、もしくは得したかを細かくエビデンスとして示すことが不可欠である。細かい「やったアピール」は調整能力が高ければ高いほど必須アイテムなのである。