「最も辛かったのは社員たちに事実を告げるとき」

救いは危ない筋からの借入れがなかったこと。どこでどうやって調べたのか、経営状態が悪くなり始めた頃から手形金融の誘いが来ていた。金利は法定限度ギリギリだったから、そんなものに手を出していたら身の破滅だった。

「弁護士さんには破産が最も適切な処理だと言われました」

そうはいっても倒産処理だって費用が掛かる。裁判所に納める予納金は法人分が200万円、葛西さん個人の破産と免責申立に80万円。これに弁護士費用を合わせると400万円も用意しなければならなかった。

更に倒産となると社員は解雇することになる。その場合は解雇手当として1カ月分の給料を支払う義務がある。

「正社員はもう7人しか残っていませんでした。あとはアルバイトが8人いたのですが合計で270万円必要でした。事務手数料や諸々の実費も用意すると都合700万円が倒産処理に要する費用ということでした」

もう会社の金庫は空っぽ、個人的な資産もあらかた吐き出していたが、妻名義で所有する車2台を中古業者に売って220万円を調達。更に郵便局の簡易保険も解約し300万円を捻出。不足の180万円は葛西さんの妹と奥さんのお兄さんに頭を下げて貸してもらった。事情が事情だけに「仕方ない」ということで助けてもらえたのは不幸中の幸いだった。

「最も辛かったのは社員たちに事実を告げるときだった。処理を依頼した弁護士さんと顧問税理士さんが同席してくれ、事の経緯を丁寧に、ありのまま話しました」

社員もアルバイト従業員も薄々察知していたようで、混乱もなく淡々としていたらしい。

債権者集会では罵声は飛ばず、むしろ同情された

同席していた弁護士と税理士から最後の給料と解雇手当は今日中に振り込む。後日、離職票を書留郵便で送るので失業手続きをとってほしい。正社員の退職金は国の立替払制度を利用すれば支払われるので手続きするように。会社は破綻処理に入るので社長は当事者能力を失うなどの話があり、最後に雇用保険に関する解説をして20分程度で終了した。

「社員への説明が終わったら弁護士が債権者にFAXを流し、本店事務所の入り口に事業を停止して破綻処理に入った。法人の破産申し立てをするということと、代理人弁護士の事務所所在地を記した貼り紙をしてその日は終わりでした」

弁護士から強く言われたのは、債権者が訪れたとしても対応せずこちらへ連絡するようにとだけ告げること、携帯電話が鳴っても出ないようにすることなどだった。

「3週間後に債権者集会と財産状況報告会があったのですが出席したのはたった6人でした。弁護士がいろいろ話している横でわたしは神妙に頭を下げていただけだったけど、混乱したり罵声が飛んだりするようなことはなかった」

むしろ終わった後に「これからどうするんですか?」と聞かれたり、「おたくも大変だな」と同情されるほどだった。

「スタンド内でカー用品やカーアクセサリーの販売もやっていまして。仕入先の担当者が来ていたのですが、損失処理をするのでそれでお終いですと言われただけ。他の人たちも実に倒産慣れしているというか、淡々としていました。不謹慎ですが拍子抜けしましたね」